「甚三紅」(じんざもみ、東京都台東区)は、旬の魚や各地の日本酒などが楽しめる店。

 

オーナーは訪問歯科診療中心のクリニックを経営する歯科医師で、「口からおいしいものを食べる一生をサポートしたい」と日本料理の調理法を活かした嚥下食も提供。当事者に加え介護関係者も訪れている。

 

 

 

「甚三紅」は谷中に漆喰の外壁の和風な佇まいで店を構える。嚥下食対応の依頼があると、歯科医師の萩野礼子オーナーが食べたいものの希望などをヒアリングし、石川満料理長が腕を振るう。

 

萩野礼子オーナー(右)と石川満料理長(左)

 

 

特徴は、日本料理の調理法や素材を活かした嚥下食づくり。

 

例えば、上野公園に遠足で訪れた特別支援学校の重症心身障害児4名と同行教員を迎えた時のこと。

「『幼い時からミキサー食で固形物も食べたことがない』とのことで、何をおいしいと感じるか手探りでした」と萩野オーナーは話す。

 

鶏のすり身と白身魚のかぶらしんじょう、あん肝大根などを舌や歯ぐきで容易につぶせる柔らかさで提供。後者には片栗粉でとろみをつけた醤油と炒り酒も調味料として添えた。子どもたちは口に入れた瞬間に笑顔になり、教員も「いつもと全然違う」と驚いた。後日、お礼の連絡があったという。

 

あん肝大根

 

 

アボカド、赤ナスの揚げ出しを嚥下障害のある高齢者に提供したこともある。前者は天ぷらとして揚げて、ねっとりと柔らかく、後者も隠し包丁を入れて揚げ、餡をかけた。

 

「これらは餡ではなくサラサラの出汁で一般のお客様にもお出ししたことがあります」と石川料理長。ほかにもすり流し、茶碗蒸しなど日本料理元来の調理法や低温調理法などを使い、嚥下障害があってもなくてもおいしいと満足してもらえることをモットーに、料理を提供している。

 

当事者からの嚥下食対応依頼の問い合わせは月4、5件あったものの、コロナ禍以降は月1件に減少。延期になるケースもあり、実施は2ヵ月に1回程。

 

 

一方で、介護・医療関係者の体験食事会の依頼が増え、月1回ペースであるという。

「自施設でもおいしい嚥下食を新たなサービスに取り入れたい」と考える介護施設関係者や歯科医師などが来る。

「施設だと温度の対応など制約はあると思いますが、煮物の煮方、温度や時間などはよく聞かれます」と石川料理長。萩野オーナーも「見た目のきれいさに驚かれることも多いです」。

 

 

温度、香りを封じるのにふた付のお椀もよく使うなど、五感で楽しめる配慮も大切にしており、管理栄養士からは「自分の利用者に紹介してみたい」の声もあった。

 

「今後は外食が難しい患者さんのご自宅にお持ちできるようなものにも挑戦していきたい」(萩野オーナー)。

 

 

 

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