コロナ禍以前に旅行市場をけん引していたのは平日でも自由に行動できるシニア層でしたが、コロナ禍の外出自粛で市場が激減しました。国内旅行市場は回復の兆しが見えますが海外旅行市場の回復にはまだ時間がかかりそうです。

 

こうした背景でシニア向けに仮想現実(バーチャル・リアリティ、VR)を使った旅行サービスがいくつか登場しました。あるサービスでは利用者が行きたい場所を指定すると、業者が現場まで赴き、360度の写真を撮影してデータを送る。ヘッドセットを着用した利用者は自宅にいながら行きたい場所の風景を楽しめる、という具合です。

 

また、VRによる墓参りサービスも出現しました。依頼があると業者が墓の周辺の風景や、墓参り前後の様子などを撮る。利用者は自宅で自分が墓参りをしているような感覚を体験できると言います。足腰の弱った高齢者にはコロナ禍と無関係に便利そうに見えます。

 

VR旅行のイメージ

 

 

しかし、こうしたサービスで本当に「現実感」を感じられるでしょうか。一度でもヘッドセット型のVRを体験した人はお分りだと思いますが、実物らしさ、リアリティとは程遠いのが実態です。
理由はヘッドセット装着による圧迫感とディスプレイ画質の低さです。しばらく装着すると車酔いの感覚になり、装着が苦痛になる人も多いです。

 

2018年に大ヒットした映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見た人の多くは「ライブの熱気であたかも会場にいるかのように感じた」と言います。実は臨場感を感じる最大の理由は、ヘッドセットによる拘束がなく「大画面・高画質」で画像を見るからです。
さらに高解像度のIMAXシアターで見た人は、通常の劇場よりもはるかに迫力を感じたと言います。人間は視野角が一定以上の大きさになると、2次元画像でも3次元画像のような臨場感を感じるからです。

 

 

高齢者をターゲットにVRを用いたサービスが散見されますが、VRを使えばリアリティを感じられるというのは幻想です。現状のヘッドセットの装着感の大幅な改善やヘッドセットを必要としない商品開発が今後のブレークスルーのカギでしょう。

 

 

 

村田裕之氏 村田アソシエイツ代表 東北大学特任教授

87年東北大学大学院工学研究科修了。日本総合研究所等を経て02年3月村田アソシエイツ代表。06年2月より東北大学特任教授。わが国シニアビジネス分野のパイオニアで多くの民間企業の新事業開発に参画。高齢社会研究の第一人者として講演、新聞・雑誌への執筆も多数。著書に「成功するシニアビジネスの教科書」(日本経済新聞出版社)など多数。

 

 

 

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