ある施設管理者の対応について「パワハラである」との訴えがあり法人全体の問題になりました。若い介護職員の言葉遣いがクレームとなり、指導した管理者が次のように言ったのです。「おまえ、そんなことも習わなかったのか?どんな教育されたの?親の顔が見たいよ」と。

 

この暴言が「パワハラである」と、職員の親から訴えがあったのです。4月からの「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」の適用を受け、今後どのように対応すべきでしょうか?

 

 

該当行為が明確化、訴え容易に

 

防止法施行で何が変わったのか?
最も大きく変わったことは、パワハラ行為が明確になったことで訴訟も含めて被害を訴えやすくなったことです。

 

過去のパワハラ訴訟を見てみると、今回の防止法に照らせば明らかなパワハラ行為であるのに、裁判での違法性(人権侵害)の立証にかなりの労力を要しています。パワハラの概念が無かった時代には、上司の部下に対する業務を逸脱した行為も、「指導の一環」という言い訳が通用していたのです。ところが、今回の防止法によってパワハラが明確に定義されましたから、この行為によって被害を受ければ行為の中止や被害の救済が訴えやすくなったのです。

 

「最近の若い職員は親にも叱られたことが無いから打たれ弱い」と発言した理事長がいましたが、ひとたび法律によってパワハラ行為と定義されてしまえば、感じ方は問題になりません。ちなみに、部下の落ち度に対する指導に際して、親の教育不適を持ち出すのは明らかに業務の範囲を逸脱したパワハラ行為と受け取られるでしょう。

 

 

■事業者はどのように対応すべきか?
パワハラ防止法への対応のために事業者がすべきことは2つあります。

 

1つ目は、経営者・管理者が「どんな行為がパワハラ行為とされるのか具体的に理解すること」です。パワハラ防止法で示された、3要件6類型だけでなく「上司のどんな言動がパワハラとして責任を追及されているのか」を判例などから詳細に調べる必要があります。

 

特に注意を要するのは、本事例のような言葉による精神的攻撃というパワハラ行為類型です。暴力行為がパワハラであることは議論の余地はありませんが、言葉の暴力(精神的攻撃)は判断基準が人により異なりますから、一定の基準を組織で認識しておく必要があります。ある施設の管理者研修で、どんな言葉がパワハラの精神的攻撃に該当するかをチェックしてもらったところ、人によって大きな差がありました。この差を無くしておくことが重要です。

 

ちなみに、次のような言葉をパワハラに該当するかチェックしてもらいました。みなさんはどう思いますか?判定の基準は「人を侮辱し人としての尊厳を著しく損なう言葉」であることです。

「おまえアホだな」「おまえはカスだ」「こんなことできなければ死んだ方がいい」「うざいから消えろよ」「おまえみたいなのろまは要らない」「おまえは給料泥棒だ」「こんなこともできないでおまえは何歳だ?」

 

 

■パワハラ対策は経営戦略である
2つ目は、経営者自身がパワハラ防止の取り組みを法律への対応だけでなく、積極的な経営戦略の1つと考えることです。

 

前述のように「親にも叱られたことが無い、打たれ弱い若手職員は普通ではない」とする経営者・管理者の考え方は、自分たちの感じ方を組織の基準としています。しかし、もしほとんどの若者が親に叱られたことが無い、打たれ弱い若手になったら、こんな働きにくい企業には絶対に雇われたくないと思うでしょう。

 

SNSで企業名を検索すれば必ず「〇〇 ブラック」という検索キーワードが示されます。SNSでブラックとレッテルを貼られることは、採用戦略では致命的な痛手になります。求人難の時代に人材採用を優位に進めるためには、職員の働きやすさを追求することが経営戦略の柱になります。介護事業は超採用困難業種であることを、経営者は再認識しなければなりません。

 

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」など

 

 

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