東京の西荻窪駅南口にある「須田時計店」は、72年前に開業。店主の須田喜八郎さんが25歳の時だった。

 

16歳で精密機械会社に入社、時計の基礎を学び、並行して、時計職人の叔父に、技術を学び時計店を開店させた。当時は夜11時まで仕事をしていたため、ほろ酔いで帰宅する人たちが目印にし、「西荻窪の灯台」とも呼ばれていた。

 

 

そんな須田さん、50歳の時、身体に異変がおきた。病院で「運動不足が原因かも」と言われ、さっそくジムに通い、毎週のように山にも登り始めると、みるみるうちに体調が回復、96歳の今も毎日、難しい修理に応じている。

 

須田喜八郎さん

 

 

 

70年間で修理した時計は数知れず、直せなかったものは記憶にないと言う。

秘訣は「共同作業です。修理は、壊れた芯棒、歯車、ネジなどを交換しなくてはいけません。それら一つひとつは、専門家がいます。その仲間たちが部品を提供しあい、お客様の時計をまた動くようにさせてもらっているのです」。

 

私の時計のベルトが壊れ、同じ地域の別の時計店に行った際、「この時計に合うばね棒がうちにはないの。この先の時計店のご主人は器用だから治してくれると思う」と紹介された店が、「須田時計店」だった。

 

紹介された店に行くと眼鏡に小型のルーペを付けた須田さんが、「どれどれ、ううむ、このバネ棒は曲がってしまっているね」と、曲がったばね棒を器用に外し、22ミリの新たなばね棒を付けてくれた。

 

 

使い捨て時代に、モノを大切にする重要さを再確認させていただくと同時に、お客の気持ちを自分事のように受け止めてくれる店が、いつまでも続いてほしいと思った次第である。

 

灯台のような「須田時計店」

 

 

 

星川 安之氏(ほしかわ やすゆき)
公益財団法人共用品推進機構 専務理事
年齢の高低、障害の有無に関わらず、より多くの人が使える製品・サービスを、「共用品・共用サービス」と名付け、その普及活動を、玩具からはじめ、多くの業界並びに海外にも普及活動を行っている。著書に「共用品という思想」岩波書店 後藤芳一・星川安之共著他多数

 

 

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