20213月期の通期決算が出揃った。この1年でも、ツクイホールディングス(横浜市)やユニマットリタイアメント・コミュニティ(東京都港区)が資本市場から去るなど、大きな動きがあった。

 

そうした中、介護上場企業各社はほとんどの会社で売上を伸ばしているが、利益の増減は分かれたようだ。コロナ禍の影響を受けながらも、M&Aや新規開設、業務効率化への対応、人材採用・育成強化、保険外・新サービス展開など、各社の取り組みは進んでいる。

 

今後、さらに競争が激化する介護業界において、いかに差別化していくのか。決算の内容を読み解きたい。

 

 

 

上場廃止続く介護市場 業界再編・競争激化へ

 

 

 

介護RDP構築へ 今期売上大幅増に

SOMPOケア 鷲見隆充社長

 

SOMPOホールディングス(東京都品川区)の介護事業セグメントは増収増益。売上高は前年度比425400万円増の13611600万円、営業利益は同142000万円増の1099000万円。今期は差別化の要として徹底的なDXに取り組み、介護RDPの構築を加速化させていく。

 

介護RDPは現在、米Palantir社の「Foundry」を活用し、SOMPOケアの入居者約8万人のデータを分析している。介護職員やケアマネジャーのこれまでの経験をもとにした予測する介護アプリが完成しており、23年度には介護事業者約6万社を対象に販売していく予定。その後は、国や行政、自治体との連携や海外展開も視野に入れるなど、業界最大手の企業として社会課題解決をけん引する考えだ。

 

なお、旧メッセージの介護付有料老人ホーム「そんぽの家」およびサービス付き高齢者向け住宅「そんぽの家S」の入居率はそれぞれ93.0%94.8%と前年度比で約3%伸びたものの、旧ワタミの介護の介護付「ラヴィーレ」はほぼ横ばいで86.3%22年度の見通しについて、4月に行ったネクサスケア子会社化により、売上高は149億円増と大幅な増収を見込む。

 

 

 

入居率改善を推進 MAや新設にも力

ベネッセスタイルケア 滝山真也社長

 

ベネッセHD(岡山市)の介護・保育事業セグメントは増収減益。売上高は前年度比2.9%増の12739700万円、営業利益は同22.9%減の801300万円となった。

 

ハートメディカルケア(旧プロトメディカルケア)の連結子会社化および拠点拡大により増収となった一方で、労務費や販促費、原油価格などの高騰による水光熱費等の増加によって減益に。入居率はコロナの影響により、今年3月時点で対前年2.5%減の90.1%。今後、病院・ケアマネジャー支援という強みや、体験ショートステイキャンペーンによって、入居率の改善に弾みを付ける。

 

今年3月にはベネッセ版センシングホーム「グランダ四谷」を開設。23年度までにさらに55拠点をセンシングホームとする予定。介護の匠(マジ神)のノウハウを教師データとした独自の「マジ神AIソリューション」により、サービス基盤の圧倒的強化で差別化を図る。25年に向け、人材事業を中心とした周辺事業を拡大していく。

 

 

 

看護拠点出店多く 全国にエリア拡大

セントケア・ホールディング 藤間和敏社長

 

セントケアHD(東京都中央区)は増収増益。売上高は前年度比6.5%増の4887600万円、営業利益は同2.1%増の286500万円と最高益を更新して着地。看護小規模多機能の新規開設や訪問系サービス需要の堅調な伸長に加え、2011月に福祉の里を子会社化したことなどが売上・利益を押し上げた。

 

22年度は、多機能型、訪介、訪看の3サービスから成る「コミュニティNo.1拠点」を引き続き拡大する方針で、16拠点から36拠点まで増やす予定。次なる成長ドライバーとして、福島、群馬、岡山、鹿児島で訪看を開設、地域No.1拠点へと発展させる。

 

 

 

9期連続増収増益 業界トップ目指す

ソラスト 藤河芳一社長

 

ソラスト(東京都港区)9期連続の増収増益となった。介護事業セグメントの売上高は、前年度比12.5%増の476200万円、営業利益は同26.7%増の257500万円。

 

同社は、2010月に日本エルダリーケアサービスおよびファイブシーズヘルスケアを子会社化。M&Aへの積極的姿勢を強めたことで、事業所数は前年度より15ヵ所増加した。これらにより、医療事務業務のオンライン代行「スマートホスピタル事業」への先行投資があったものの増益に。30年の数値目標に売上高3000億円、営業利益200億円を掲げ、医療・介護業界の業績トップを目指す。

 

 

 

M&Aで施設数増 障害者就労軌道に

シップヘルスケアホールディングス 大橋太社長

 

シップヘルスケアHD(大阪府吹田市)のライフケア事業は増収増益。売上高は前年度比67600万円増の2524700万円、営業利益は同7.6%増の24700万円。

 

M&Aなどにより3施設増加したほか、給食事業における受託先の増加、障害者就労支援事業である野菜の水耕栽培も軌道に乗り、業績が堅調に推移した。なお、同社は今年4月に、医療・福祉施設向けカーテン管理や千葉・埼玉で介護付「グランシア」シリーズを展開するキングラン(東京都千代田区)を子会社化した。

 

 

 

サービス多角化へ一手 DXや周辺事業で差別化

 

 

 

安価な特定施設 今後も積極展開

ウチヤマホールディングス 山本武博社長

 

ウチヤマHD(北九州市)の介護事業は増収減益。売上高は前年度比2.7%増の2055300万円、営業利益は同12.9%減の13200万円。

 

近隣の病院や居宅介護支援事業所との連携の強化を推進し、新規拠点を中心に積極的に入居者受け入れに努めたことで過去最高売上高となったが、コロナ禍の入居控えの影響で既存店入居率が前年度比2.5%減となったことでやや減益に転じている。

 

21年度は介護付や放課後等デイなど6拠点を新規開設し、拠点数は116ヵ所196事業所となった。入居一時金0円、月額基本料141000円というリーズナブルな価格設定を維持しつつ、今後も介護付の積極展開、放課後等デイ・GHの展開を進め、M&Aも推進していく。

 

 

 

新規拠点利用者順調拡大で増収

ヒューマンライフケア 瀬戸口信也社長

 

ヒューマンHD(東京都新宿区)の介護事業セグメントは増収増益。売上高は前年度比6.2%増の1107500万円、営業利益は同31.7%増の24300万円となった。

 

グループホームや小規模多機能など計6拠点の新規開設や、デイの人員再配置が奏功。また、職員の定着率改善に向けた研修強化、業務のICT化も増収増益に寄与した。22年度も、新設や外国人技能実習生向け研修センターの利用者数増などによる増収を見込む。

 

今後の成長戦略として、GH・小多機のドミナント展開エリアに「住まい」「医療」「福祉用具」事業を重複展開する「CCRC事業モデル」の構築を据える。

 

 

 

介護・障害・保育各事業で拡大へ

リビングプラットフォーム 金子洋文社長

 

リビングプラットフォーム(札幌市)は増収増益。売上高は前年度比27.3%増の1162500万円、営業利益は同125.4%増の49600万円と大幅増。20年上場の同社だが、右肩上がりで伸ばしている。

 

2110月にブルー・ケアを子会社化したことなどによる拠点数拡大が売上を押し上げた。障害者支援事業でのGH開設や、保育事業でもM&Aを進めており、各事業における拠点拡大に力を入れている。21年度の介護事業はM&Aおよび事業承継により6事業所増、22年度には10事業所を新開設予定だ。営業利益率は前年度よりも改善されたが、オミクロン株の蔓延による入居者の入院延べ日数の増加や職員への特別手当を通じ、利益を圧迫した。

 

同社では、特定技能制度及び技能実習制度による外国人雇用や特例子会社の活用による多様な人材の確保に加え、セールアンドリースバックによる資産圧縮、リファイナンスを含む借入金の最適化による資産効率の向上、積極的なM&Aを掲げ、企業価値向上に取り組む。

 

 

 

国内外で湯灌好調 事業の多角化へ舵

ケアサービス 福原俊晴社長

 

ケアサービス(東京都大田区)は増収増益だ。売上高は前年度比3.2%増の896500万円、営業利益は同0.4%増の3600万円。同社は今年1月、東証スタンダード市場へ市場変更した。

 

コロナ禍の影響でデイ事業は減収となったものの、訪問系サービスが堅調に推移。エンゼルケア事業も好調に動いたことなどが売上・利益を支えた。中国上海での湯灌事業はロックダウンのため停止されたが影響は軽微、解除後すぐにサービスを再開予定という。

 

同社は次の10年に向けた中長期戦略を発表。在宅介護事業を柱に、葬祭事業や福祉用具事業、さらなる海外展開など多角化し、「シニア向け総合サービス業」へと進化する考えだ。

 

 

 

上場廃止を回避 介護は減収減益

レオパレス21(東京都中野区)のシルバー事業は減収減益。売上高は前年度比1.8%減の1425800万円、営業利益は同9.6%減となるマイナス78900万円。

 

コロナ禍による介護サービスの利用控えが続いているが、223月時点で87ある既存施設では、継続的なオペレーション改善により原価抑制に努めている。連結業績においては、賃貸事業での施工不良問題により、213月期時点で84億円の債務超過となっていたが、223月期に自己資本が10億円となり、上場廃止を免れた。今後賃貸事業に経営資源を集中し、あらゆるコストの見直しと削減を徹底する。

 

 

 

 

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう