<在宅医療事始 ~医療連携、その現状と展望~>
認知症には、脳細胞の一部の欠損、あるいは萎縮による機能低下が原因で起こる中核症状と言われるものがある。主な症状として、記憶障害や見当識障害、言語障害などが挙げられる。そこからさらに、不眠、徘徊、意欲低下などの様々な周辺症状が引き起こされる。
介護に携わる家族や介護職の皆さんは、患者さんの重症度を周辺症状によって判断し、それらの対応に日々追われていることであろう。しかし、周辺症状として現れるそれぞれの行動には一つひとつ意味があり、それをきちんと理解することによって対応策を立てることができる。
例えば、代表的な行動に「徘徊」が挙げられるが、これはなぜ起こるのだろうか。そのほとんどの場合が排泄行為に関係すると言ったら、皆さんは驚くだろうか。
便秘があり、トイレに行くが便が出ない、部屋に戻るが、出ていないからまたトイレに行きたくなる。そのうちトイレに行ったことも、排便していないことも忘れてしまう…。その繰り返しが徘徊のきっかけになることは珍しくない。
徘徊の原因が排泄にあるなら、そのコントロールをしっかりすることで徘徊の頻度が減る。
意思疎通がうまくいかない方で、意識状態があまり保てていないようであれば、まず先にその方が夜眠れているのかどうかを確認してみよう。
夜間何度もトイレに起きているのかもしれないし、ただ単に精神的な心の高ぶりから不眠になっているのかもしれない。それが原因で日中寝てしまい、昼夜が逆転しているのであれば、精神的に不安定になりやすいことは言うまでもないだろう。夜眠れない原因を突き止め対処すれば、徘徊を軽減できるはずだ。付け加えるならば、便秘の状態ではイライラしやすく、それが暴力行為につながっていたり、興奮状態を引き起こしたりする可能性があることは想像するに難しくない。
便秘が改善され、頻尿がコントロールできて、夜よく眠ることができれば、精神状態は落ち着き、昼間も食事をきちっととることができ、薬も飲めるようになる。レクリエーションの時間に運動もできれば、生活リズムも整う。
こういった小さな、その方特有だと思われている症状の一つひとつを正確に把握し、理解し、丁寧に改善していけば、認知症の周辺症状を悪化させずうまく付き合い、その方をケアすることが可能なのだと思う。
残念ながら我々は認知症を完全に治す方法をまだ持っていない。「認知症のその方」と向き合い、共に生きていく必要があるのだ。
髙橋 公一
医療法人社団 高栄会 みさと中央クリニック
埼玉医科大学病院 第一外科入局。消化器・一般外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科、移植外科、脳神経外科、小児科などを経験。2001 〜03 年に外科留学、移植免疫学を学ぶ。帰国後、埼玉医科大学に復職し、チーフレジデントを勤める。その後、池袋病院外科医長、行田総合病院外科医長を経て、08 年みさと中央クリニック開院。17 年に法人化。