賃貸物件の原状回復義務 省令の基準で算定を
賃貸人は、賃貸物件の明渡しの際に賃借人が入居後に不注意で壊したエアコンの修理ないし交換費用を賃借人に請求することはできるでしょうか。平成27年製のエアコンを例に考えてみましょう。
明渡時の原状回復義務の分配について、
①通常損耗については賃貸人の負担
②特別損耗については賃借人の負担
というのが原則的な考え方です(民法621条)。
そうすると、本事例では、賃借人が不注意でエアコンを壊しているので、エアコンの故障は通常損耗であるとはいえず、特別損耗として賃借人負担となり、修理ないし交換費用も賃借人の負担となると考えられそうです。
しかし、賃借人が貸室を明け渡す際には、既に経年劣化等の通常損耗が生じているのが通常であることからすれば、修理ないし交換を行うことにより、賃貸人が無条件で経年劣化のない新品を取得することは衡平の観点から妥当ではないと考えられています。
そこで、特別損耗により修理ないし交換の必要性が生じた場合でも、修理交換費用の全額を賃借人負担とすべきではなく、経年劣化分は賃貸人負担、特別損耗分は賃借人負担として、適正な割合で費用を按分するべきと考えられています。
この点について裁判例は、「特別損耗の修復のためその張替えを行うと必然的に経年劣化等の通常損耗も修復してしまう結果となり、通常損耗部分の修復費について賃貸人が利得することになり、相当ではない」「経年劣化分を考慮して、賃借人が負担すべき原状回復費の範囲を制限するのが相当である」(大阪高判平成21年6月12日)と述べており、負担部分の算定方法として、別の裁判例は「『減価償却資産の耐用年数当に関する省令』を参考に経過年数を考慮して算定すべきである」(東京地判平成23年2月23日)と述べています。
そこで、本事例についてみてみると、減価償却資産の耐用年数当に関する省令によるエアコンの耐用年数は6年とされていますので、賃借人が壊してしまったエアコンが平成27年製であり、令和4年現在において、既に6年以上が経過していることからすると、賃借人は原状回復費用の負担義務を負わず、賃貸人は修理ないし交換費用を請求することはできないと考えることになります。
弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士
家永 勲氏
【プロフィール】
不動産、企業法務関連の法律業務、財産管理、相続をはじめとする介護事業、高齢者関連法務が得意分野。
介護業界、不動産業界でのトラブル対応とその予防策についてセミナーや執筆も多数。