グループホーム運営居室数国内トップのメディカル・ケア・サービス(さいたま市)はこのほど、全国約290事業所に導入、効果実証を行った「MCS版自立支援ケア」の結果調査を実施。各事業所6ヵ月間の実施で、認知症の周辺症状(BPSD)改善率約85%など、さまざまな成果を上げた。
同社の認知症ケアを牽引する、認知症戦略部の杉本浩司部長に話を聞いた。

コーポレートコミュニケーション室室長
/認知症戦略部部長
杉本浩司氏
認知症ケアの質担保「再現性」確立 活用へ
――今回の実証調査の概要について
杉本 2019年1月から22年4月末にかけて、当社が運営する全国約290事業所の全利用者に「MCS版自立支援ケア」を提供し、効果を実証。5月に結果調査をしました。
まずは約250項目の独自のアセスメントを行ったのち、①適正水分量の摂取②タンパク質を中心とした栄養改善③運動プログラムの実施④処方薬の適正化を実施。これらを6ヵ月間実践しつつ、アセスメントを毎月更新し、都度全利用者へのアドバイスとケアを実践。3ヵ月目からは毎月エリアごとの事例報告会も行いました。
――取り組みの具体的な内容と効果は
杉本 まず①適正水分量の摂取については、毎日、各利用者に適した量をしっかり摂取してもらうことを重視。日によってムラなく、無理なく摂取できるようこまめに介入しました。
②栄養改善では、BMIと血液検査の数値からその人に合った改善を行いました。アルブミンや総タンパクの数値を参照し、これが基準値を下回る人をすべてチェック、数値が低い人にはプロテインを補食として摂ってもらいました。現在は全利用者の約7割がこの補食を摂っており、効果は▽BPSDの症状緩和・消失▽転倒しても骨折しにくい▽褥瘡の治癒が早い▽歩行状態の改善――などとして表れています。
そして③運動プログラムについては、これまで週2回行っていたリハビリを週4回に増やしたことで歩行能力が向上。これと①②により、BPSDに対し処方されていた向精神薬や睡眠薬、抗認知症薬、下剤が不要になるケースが増加。④処方薬の適正化につながり、本実証調査期間における1日あたりの減薬数は804錠に上りました(616名が対象)。
この①~④の取り組みにより、BPSDの改善率は84.7%、骨折による入院日数は63.3%低減(702名が対象)されました。また、これらのケアを実践したことで利用者との接触回数が増え、改善につながったというメリットもあります。
――「MCS版自立支援ケア」が目指すものとは
杉本 「再現性のあるケア」を確立することです。グループホーム運営トップの当社では、誰が介入しても少なくとも70点のケアが受けられる、といった認知症ケアの質の担保がなされているべきです。
この「再現性のあるケア」は介護業界では未確立で、質の高いケアというのは、ベテランや一部カリスマのような職員にしかできないケアだったと言えます。こうしたケアを言語化・数値化し、看護師、リハ職、介護職から成る専門職チームで全施設に研修・レクチャーしました。
また、導入3ヵ月目からエリアごとに行った事例報告会は、事業所間でアドバイスし合える場となり、ケアの効果について定量化もしくは可視化できる動画などでプレゼンする練習としても寄与。取り組みの効果をすべて数字で示せるという強みにもなりました。
――改めて、今後について教えてください
杉本 私たちは「認知症を取り巻く、あらゆる社会環境を変革する」ことを掲げています。
認知症に対するネガティブなイメージは強いですが、当社の社員が悲観していてはいけない。私たちがかかわることで、社会とつながり穏やかに生活できる、BPSDを改善できるというマインドが入口にないといけない。現場で成功体験を繰り返すことで、社員約6500人がこのマインドを持ち、利用者を幸せにできると考えています。
そのためには、実は「MCS版自立支援ケア」だけでは足りません。これに口腔ケアや靴・福祉用具のフィッティング、居室や生活空間の環境調整などを含めた「MCSケアモデル」を構築中です。
ケアの質の担保について触れましたが、現在はまだムラのある70点。80点、90点のときもあれば60点の時もあるでしょう。ここをまずは底上げしていかなくてはいけない。もっとパッケージ化して、業界で広く活用できるようにしていく責任が当社にはあります。