前号では物価高対策を、コスト面から「①設備投資」「②業者の変更」「③ICT化」の3つのテーマに分けてお伝えしました。

 

 

今回の物価高は、一過性のものでないと予測されています。補助金や介護報酬による補填は、現段階ではあまり大きな期待はできません。いち早く経営的な判断をし、なんとか乗り越えなくてはなりません。

そこで今回は、有料老人ホーム、サ高住などの高齢者住宅で、コスト分をどう価格に転嫁するかについて取り上げたいと思います。

 

 

価格弾力性
まずは「価格弾力性」について、考えておく必要があります。価格弾力性とは、商品やサービスの価格が変動(高くしたり、安くしたり)した際に、それらの需要(求める客数)がどの程度変化するかを示すものです。

 

お客様は、できれば良いものを安く買いたいという気持ちがあります。自分が考えるよりも「高価だ」と感じれば、そのサービスには手を出しづらくなります。「価格弾力性が高い」とは「値上げ幅が大きくても買ってくれる」ということです。逆に「低い」とは「過度な値上げをすると買ってくれない」ことを意味します。

 

つまり、価格弾力性を分析して、皆さんの施設の月額利用料が、どれくらいの値上げに耐えられるかをよく考えなくては、客離れを引き起こすリスクがあるのです。

 

 

判断材料は、以下の2つです。

①競合環境(値上げをした場合、同程度のハード、ソフトを提供する施設に対する競争力は?)
②利用者の予算(値上げをした場合、現利用者は払える?現利用者が退所した場合、新規利用者を獲得できる?)

 

これらにより月額費用の総額で、どこまでの値上げに耐えうるかを判断します。最初から「利用料」、「食費」などの項目ごとの価格を検討するのではなく、まずは総額を決めてから、値上げの内訳を検討します。

 

 

 

8%の値上げ事例
ある神奈川県の施設では、7月から月額費用を9300円(約8%)値上げしました。大幅な値上げです。もとは、施設利用料+管理費+食費の合計が11万円台という低価格型の有料老人ホームです。価格訴求によって集客してきたのでかなり悩みましたが、競合施設と比較して「値上げをしても集客できる」と判断し、値上げに踏み切りました。

 

しかし既存利用者の中でも、予算的に退所しなくてはならない方が数人いたため、特定の方の施設利用料(居室単価)を据え置くことで、大幅な値上げを回避しました。

 

 

月額費用の内訳は、以下の通りです。

 

対応策①「家賃(利用料)」の値上げ
トイレ、温水器、空調機器などの価格、及び修理代の上昇を理由にした値上げです。近隣の賃貸住宅の家賃相場上昇を理由にするケースもあります。

 

ただ、サ高住の家賃や有料老人ホームの施設利用料は、地域相場があり、競合施設とも比較されやすいので、慎重に決める必要があります。前述の施設でも地域相場をかなり綿密に調査しました。

また、入居者や家族の納得も得られづらいので、項目としては重要ですが、優先度は低いかもしれません。

 

 

対応策②「食費」の値上げ
食品の物価高は、利用者や家族が普段から感じていることですから、比較的、納得が得られやすい項目です。私のクライアントでは、食費の値上げが最も多いです。最近では、給食を外部委託している業者からの値上げ交渉も増えていますから、最優先で検討しましょう。

 

 

対応策③「管理費」の値上げ
光熱費、人件費、ガソリン代などの価格上昇を理由にした値上げです。これらの項目も、日常生活と直結しているため、食費同様に家族からは理解が得られやすいかもしれません。

 

 

値上げを進める際には、利用者、家族に対する丁寧な説明が不可欠です。前述の施設でも、家族会を2回開催し、食材、電気代、ガソリン代、トイレ等の設備代がいくらからいくらになっているかを示して、了承を得ました。

値上げの際には、できるだけその根拠を示すようにしましょう。

 

 

 

糠谷和弘氏 代表コンサルタント ㈱スターコンサルティンググループ
介護事業経営専門のコンサルティング会社を立ち上げ、「地域一番」の介護事業者を創り上げることを目指した活動に注力。20年間で450法人以上の介護事業者へのサポート実績を持つ。書籍に「介護施設帳&リーダーの教科書(PHP)」などがある。

 

 

 

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