私は2006年にヘルパー2級(初任者研修)の資格を取得し、デイサービスを併設している宅老所にて介護職として勤務を始めた。

 

デイサービスの利用者のなかには、玄関を開けたと同時に向きを変えて素早く帰ろうとする人もいた。もちろん急いで追いかけ施設内へ戻るよう促すが、そもそもデイなどに来ることが本意ではないのだから説得などうまくいくはずがない…。利用者の暮らしを考え、我が施設は一切鍵を掛けていなかった。

 

真夏の日差しの強いなか突然出て行かれ、隣を歩いていると「来ないで!私は自宅に帰るのだから」と強く言い放つ。ときには、後ろからついて来る私を見つけると、杖で突っつかれる、なんてこともあった。

 

そんな時は距離を置き、「刑事さんが尾行しているようだわ…」などと思いながら疲れた頃合いに声をかけて、水分補給を促したり、施設へ帰る声掛けをしたりしていた。

 

 

 

私が学んできたなかでは、これらの行動を認知症周辺症状(BPSD)の帰宅願望や暴力、暴言などと判断していた。

 

その前に、帰りたいと思うのには理由があるのではないか。デイサービスを利用することは、本人の意思なのか。来てはみたけど嫌いな人がいるのか。はっきり言葉にできないけど好きな雰囲気ではないのか。

 

理由や自分の思いを伝えられない。だからこそストレートに出て行くという行動をとっているだけなのではないか。その疑問は介護にかかわり始めたときからあったが、いわゆる周辺症状と無理に納得していたように思う。

 

 

そして医療職となったこの2年間では、自力で歩いて入所してきた方が、転倒リスクがあると抗精神病薬を処方され、他施設へ移るときには車椅子で退所した。そのことにも整理のつかない疑問を感じた。

 

この疑問を解消すべく環境を変えてみようと、認知症専門クリニックで勤務し改めて勉強しなおそうと思う。

 

「暴れたり徘徊したりするのは病的な症状ではなく生きるための表現とみるべき。認知症は病気としてみるだけではだめ。モンスターではない、等身大の人として見る視点が先にあるべき」とお考えの認知症専門医の下で、この7月から適切な抗精神病薬の使い方や認知症の方に寄り添い環境を整えることの大切さを学ぼうと思う。

 

 

 

女優・介護士 北原佐和子氏

1964年3月19日埼玉生まれ。
1982年歌手としてデビュー。その後、映画・ドラマ・舞台を中心に活動。その傍ら、介護に興味を持ち、2005年にヘルパー2級資格を取得、福祉現場を12年余り経験。14年に介護福祉士、16年にはケアマネジャー取得。「いのちと心の朗読会」を小中学校や病院などで開催している。著書に「女優が実践した魔法の声掛け」

 

 

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