2024年の介護保険制度の改定に向けた議論がやっと始まる。参院選挙までは、国民への負担増につながりかねない施策はお預け状態だった。制度施行以来23年。いよいよ団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる。サービス利用が本格的に広がることは間違いない。

 

財務省の財政制度等審議会を主軸に、サービスの縮減と利用料アップの見直し圧力が高まっている。厚労省がこの圧力に抗しきれるか、官邸が世論をどのように読み込むか、攻防戦が始まる。

 

 

主な論点は3つだろう。

①要介護1、2の利用者のサービスを保険者市区町村の地域支援事業(総合事業)に移行する

②自己負担の2割・3割負担の対象者を拡大する

③利用者には無料のケアプラン作成費を有料化する。

 

これらを審議する際に、問われるのは何が判断基準になるかである。最も重要なのは介護保険の理念に照らし、合致するか否かである。その理念は「介護の社会化」だろう。

 

 

介護保険を創設する際に、多くの国民が賛同したのは「介護の社会化」という考え方があってこそだった。女性たちに押し付けてきた家族介護からの解放という訴えが、受け入れられた。

 

そのために、ほぼ強制徴収の介護保険料に抵抗感がなかった。保険とは言え、増税に近い財源の確保がすんなり進み、制度は無事離陸できた。「社会化」とは、さまざまな外部サービスを選択できることだ。しかも、費用負担が1割だけということも魅力だった。

 

ヘルパーや一時的な宿泊サービスは先行地域もあったがバラバラだった。それを、分かり易い全国一律に切り替えたのも功を奏した。地域差がなくなり制度への理解が高まった。そうした観点からみると、②の手直しは、理念の基本に関わりそうだ。

 

 

1割負担から2割負担に変わると、「利用料が2倍になる」ということだ。同額の利用料しか払えない人にとっては、サービス量を半分にしなくてはならない。週4回のデイサービスや訪問介護を週2回に減らさざるを得ない。

 

現行では、年金などの所得が280万円以上ある単身世帯、それに346万円以上の2人以上の世帯が2割負担。それ以下は1割負担だ。

2割、3割負担の利用者は全体の9%だが、下限を下げると10%を大きく超えてしまう。要介護者の大多数が日常的に利用できて初めて「社会化」となる。①の地域支援事業も、サービスの上限があり、かつ自治体間で取組みの違いが出ている。「社会化」の理念から遠ざかってしまう。

 

 

こうしたサービスの縮減策しか手の打ちようがないのだろうか。財源増になりそうな策に目を転じてみよう。まず、考えられるのは消費税だろう。安倍政権が、消費税の10年間据え置きを宣言して以来、この議論は火が消えたようだが、見直しに着手できないことはない。

 

欧州では最高25%の諸国が多く、大半は20%に近い。日本の10%はあまりにも低率。消費税は社会保障にしか使わない、と決めており、その社会保障が窮地に陥っている。出番のはずだ。

 

 

次に、保険料の増額である。団塊世代がサービス利用者となると、その所得は従来の高齢者と中身が大きく変わる。学生時代に地方から首都圏や近畿圏などに移動し、そのまま大都市に住み着いたのが団塊世代。上場企業をはじめ企業勤務者が大半だったので厚生年金の受給者である。

 

介護保険創設時の利用者は、地方で暮らす国民年金受給者が多かったが、状況は一変しつつある。厚生年金は国民年金よりはるかに受給額は多い。つまり、より多くの保険料を設定することができる。
市区町村保険者が作成する保険料徴収プランで、高所得者からの徴収をより高額にしてもいいはずだ。

 

 

そして、もう一つのアイデアは40歳以上としている保険料徴収年齢を20歳まで下げる策だ。同時に障害者も利用者に取り込み、障害者支援との一体化を図る。かつて介護保険制度の検討時には議論されたことだ。

 

いっそのこと20歳を0歳時まで下げてしまい、事実上の「こども保険」との融合も考えられる。少子化対策で浮上してきたこども保険。介護保険制度の延長策として十分想定できるはずだ。

 

 

 

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

 

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