コロナパンデミックは医薬品の開発に不可欠な臨床試験(治験)にも大きな影響を及ぼした。従来、病院で行っていた新薬の治験が、コロナで患者が病院に行くことができなくなり、患者の新規登録を一時的に中断するという事態に追い込まれた。日本の治験はこれまでも必要な患者数が集まらず、時間もかかり、治験費用も高いなど課題が多かった。それがコロナでさらに輪をかける事態となった。

 

こうした日本における治験の遅れは新薬開発の遅れにもつながり、ひいては国民が新薬の恩恵に浴するチャンスを減らす。未だにコロナ治療薬の国内における承認がされていない理由のひとつはこうした治験の遅れにもある。

 

 

そんな中、注目を集めているのが病院に来院せずとも在宅で治験を受けることのできる分散型臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trial)だ。バーチャル治験ともいう。

 

2011年、米国のファイザー社が完全バーチャルのリモート治験を行い、話題となった。当時はまだ技術や法規制の面で課題が多かったが、最近ではオンラインやウェアラブルな検査機器の進歩で状況が変わってきた。海外では15年頃からDCTが一気に進んだ。

 

 

我が国でもようやく今年6月、内閣府の規制改革実施計画に「在宅での治験の円滑化」として取り上げられた。ポイントはこれまで対面が原則だった被験者(患者)への説明と同意が一定条件下でオンラインでも可能なようにすること、これまで治験を行う医療機関から治験薬を患者に渡していたが、製薬会社から患者に治験薬の直接配送ができるようにすること、在宅治験において必要となる訪問看護師などの活用について整理し必要な措置を実施することの3点であった。

 

 

訪問看護師の活用については、治験には訓練を受けた看護師などの治験コーディネーターが必須だ。コーディネーターは治験実施計画書に沿った投薬や検体採取、患者の状態評価と記録、治験薬の管理などさまざまな専門的な作業を担う。病院においては、専門教育を受けた臨床検査技師や看護師が務めている。これを在宅で行うにはやはり訪問看護師がふさわしい。

ただ通常業務と同時に行うのは負荷が大きすぎる。このため治験施設支援機関(SMO)から派遣される看護師に、こうした治験コーディネーターの役割を果たしてもらってはどうか?

 

在宅治験が実施できるようになると、一挙に治験のスピードアップアップが計れる。また在宅治験はオンライン同意やオンラインモニターなどの進歩も促すことになり、在宅医療そのものの質の向上にもつながる。在宅治験をぜひ進めてほしいものだ。

 

 

武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)

 

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう