「死」が日常生活で語られるようになった。「縁起でもない」と避けてきた日本社会が変わりつつある。

 

新型コロナウイルス対策で、病院と距離が遠ざかり、「病院死」から「自宅・施設死」への意識転換を迫られていることもある。自身の死の在り方を表明する手立ては「リビングウイル」(事前指示書)である。

 

「リビングウイル」とは、人生の最終段階(終末期)を迎えた時に、延命治療を希望「する」「しない」など医療の選択を事前に意思表示しておく文書のこと。

法的な拘束力はないが、医療の現場では尊重されるようになってきた。高齢者が、意に沿わない延命措置を避け、最期まで自分らしく生きる可能性が高まる。

 

 

葬儀の方法をはじめ遺産や墓などについて書きこむエンディングノートも含め、人生の最期の在り方、即ち「終活」への関心は高い。

だが、1人暮らしの高齢者が外出先などで突然倒れたり、事故に遭いコミュニケーションが取れなくなると、折角記入した終活情報が医療関係者などに伝わり難い。自宅の保管場所にたどり着けないからだ。そこで、自治体が登録制度に乗り出した。

 

この4月から終活情報登録事業を始めたのは東京都豊島区。登録できるのは、①緊急連絡先 ②リビングウイルの保管場所 ③エンディングノートの保管場所 ④臓器提供の意思 ⑤遺言書の保管場所など9項目。

 

登録者に渡される名刺大のカードには「もしもの時の私の情報を豊島区に登録しています」と記されており、本人名と共に同センターの電話番号もある。
「もしもの時」が起き、病院や警察などがカードを見て同センターに連絡すると、緊急連絡先を教えられる。

次に、電話を受けた緊急連絡先の人が、同センターに問い合わせてリビングウイルなどの保管場所を知る。
そして入手したリビングウイルなどの内容を病院に伝える、という段取りだ。

 

かなり手間がかかるが、プライバシーの保護から緊急連絡先の人を経由しないと情報の保管場所が分からないようにしている。

 

豊島区では昨年12月にエンディングノートにあたる28頁の冊子、「豊島区終活あんしんノート」を作成した。預貯金や不動産、遺言書、葬儀、墓などの項目と並んで「私のリビングウイル」を記入するページもある。

延命措置をはじめ中心静脈栄養や胃ろう、人工呼吸器など10項目にわたり諾否を記入できる。つまり、リビングウイルを含めたエンディングノートとなっているのだ。

 

 

19年9月から登録を始めた鎌倉市は、延命治療の諾否を直接、市の職員が医療現場に伝えられる方式とした。横須賀市も昨年11月から、終活登録の申請書に延命治療の諾否の欄を設けた。

 

自治体の中には、リビングウイルを書き込んだカードを住民に配り、誰でもが簡単に意思を伝えられるようにしたところもある。持ち歩けるので、医療関係者がすぐに延命治療の諾否を知ることが出来る。自治体への登録でなく、住民の自主性を尊重した。

 

長野県の須高地域医療福祉推進協議会(須坂市、小布施町、高山村)が作ったカードがその代表例。裏面に気管切開をはじめ人工呼吸器、心臓マッサージなど13項目について、希望「する」「しない」を意思表示できるようにした。2018年に初版を作成、18年に改訂版とした。

 

宮崎市が8年前に始めた「わたしの想いをつなぐノート」は名刺3枚ほどの大きさで、6ページで構成。人工呼吸器や点滴など6項目について「望む」「望まない」をチェックできる。

 

 

自治体がリビングウイルへの関心を高めているのは単身高齢者の増加だ。2020年10月の国勢調査によると、全国で65歳以上の単身者は671万6806世帯で、5年前より109万世帯も増えた。これは65歳以上がいる世帯の18%に達する。

 

厚労省も18年11月に、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を「人生会議」と日本語訳して発表し、奨励し始めた。人生の最終段階に備えて、事前に家族だけでなく医療や介護、それに友人たちと一緒に話し合い、本人の意思決定を支援しよう、というものだ。

 

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう