東邦大学大森病院(東京都大田区)の東洋医学科で非常勤の鍼灸師として働くかたわら、自らの治療院も運営する桑名一央先生。意外にも、鍼灸診療は心療内科系の疾患にも有効だという。

東洋医学の基本の「き」と心身への効能について、前後編2回にわたっておさらいしていきたい。

 

鍼灸マッサージ師
くわな鍼灸治療院
東邦大学医療センター大森病院
桑名一央(かずひさ)さん

 

 

 

病も気分も“気”から!?

 

――メンタルの不調と鍼灸って、あまり結びつかないような気もするんですが。
漢方も鍼灸も含め、東洋医学は「気、血、水」のバランスを見ながらそれぞれの流れを良くしていきます。中でも気は、肝臓の気、腎臓の気といった形でそれぞれの臓器を動かすエネルギーとして使われており、この気の変動が実は感情に直結しています。

 

たとえば、肝臓の気は上昇しやすく、この気が強すぎると、瞬間湯沸かし器みたいな〝ブチ切れキャラ〞に。逆に下に行きやすい腎臓の気が強いと、すぐおどおどしたり怖がったりしてしまう。こうしたメンタルのバランスの崩れに対して「気の調整」を行います。

 

鍼は1回40分ほどかけて、あちこち20本くらい打ちます。患者さんは圧倒的に女性が多いです。鍼を怖がらないんですよ。男性は痛みに対してものすごい恐怖感があるようで、本当に切羽詰まらないと来ない。あと、女性はやっぱりしゃべるのが薬ですね(笑)。会話でコミュニケーションを取ることの治療効果ってすごく高いと実感します。

 

 

 

気の変動が感情も動かす

 

――気のバランスを整えることで感情の波をコントロールできるようになるとは知りませんでした
パニック症候群や閉所恐怖症などのために不登校の子供も、東洋医学に噛み合う場合が多いですよ。東洋医学ではパニック症候群を「奔豚(ほんとん)病」と呼びます。突然おへその下あたりから何かもぞもぞしたものがワーッと上がってきて胸や喉が苦しくなり、心臓がドキドキして呼吸が速まるというものです。

 

上から下に降りていかなきゃいけない気が途中で詰まって上に跳ね返ってきてしまうのが原因です。こういう場合は、手首から指3本分ぐらい下のところにある内関というツボに鍼を打ったりして、気の上昇を抑えます。胃が膨れると心臓に圧を感じて、これがきっかけで不安感が出ちゃうこともあるので、「炭酸飲料をやめて腹八分目で食べて」なんてアドバイスもします。

 

季節の変わり目に体調がリンクできず、学校に行けなくなる子供たちもいます。でも治療を始めると、すごい自信を持って学校へ通えるようになるんです。

 

 

 

――身体の変調を単なる科学的・生理学的な現象としては捉えないところに東洋医学の面白さを感じます。
古代の中国では、気の流れ(気の通るルート)を経絡(けいらく)と呼びました。その途中にポンポンとあるのがツボ(経穴)で、大体361個あります。昔の暦の1年の日数です。

同じく中国で体系化された概念である「子午流注(しごるちゅう)」では、1日24時間を2時間ごとに区切り、子、丑、寅のように十二支を当てはめています。それぞれの時間枠で活発になる臓器が決められていて、まぁ各臓器のゴールデンタイムを表したようなものです。

 

たとえば気管支喘息の発作って明け方の4時前後に起こりやすいんですが、この時間帯は「肺の時間」なので、こうした自己主張をしてくると。人が明け方に死ぬことが多いのも、最後に肺の気が落ちて肺炎になるからかもしれません。丑三つ時は「肝」で、昔から魂に深く関わると言われてきたために、幽霊の時間とされているんじゃないか、とかね。

 

 

 

西の「筋膜」と東の「経絡」

 

――西洋医学でも「リンパの流れ」を整えたり筋肉や神経に鍼を打ったりしますよね。どんなところが違うのでしょうか。
スポーツトレーナーや整形でよく見られるアプローチですね。実は、東洋と西洋の鍼治療は、どんどん融合しつつあるんです。

 

21世紀に入って、筋肉を覆う膜である「筋膜」という概念が解剖生理学ですごく流行り始めた時に、この筋膜の流れと東洋医学の経絡の流れが何だか似てるぞ、という気づきがありました。両者がほぼ同じルートを指していることがわかってきたんです。

 

筋肉と筋膜がぴったりくっついてはおらず、間に隙間があることもわかってきました。そして、いろんなものが滑走していくこの隙間の空間がすごく大事で、気のようなものもこの辺にあるんじゃないか、という認識が生まれてきました。

 

 

実際、筋膜自体は絶縁体ですが、筋膜と筋肉の間にはものすごく電気が通ります。筋膜にあるセンサーは筋肉と比べて6倍くらい感度が高いので、筋肉に電気を流すと、むしろこの筋膜が刺激を受け、それが変化する様子を脳が感知して血流が上がります。

 

ただ、東洋型の治療をする人って割とメンタル寄りの症状を扱うことが多く、一方スポーツトレーナー的な人は、メンタルそっちのけでパフォーマンス重視になることも。「痛み取れた?よっしゃオッケー!」みたいな(笑)。この辺のバランスの取り方がまだちょっと難しいというのが、僕らに共通する課題ですね。

 

(10月5日号に続く)

聞き手・文 八木純子

 

 

筋膜の流れと呼応する経絡の一つ「足の太陽膀胱経」

 

 

 

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