ヒューマンエラー事故の防止対策

 

ある公共性の高い団体からちょっと変わった依頼がありました。「事務作業のミスが多くて困っている、防止対策はないか?」というものでした。個人情報のFAX誤送信、DMの誤配送など、外部に迷惑をかけ謝罪が必要になるようなミスが頻発しているのです。そこで、過去3ヵ月以内に起きた事務作業ミスに対して、職員向けに「防止対策はどうすべきか?」というアンケートを取ってもらいました。「注意力や集中力を高める方法を習得する」「ミスに対するペナルティを作る」など、専ら個々の職員の注意力を向上させる対策ばかりでした。

 

注意力を高めれば本当にミスは減るのでしょうか?

 

 

 

■ヒューマンエラー事故対策の考え方

人のミス(ヒューマンエラー)による事故の対策は、ありとあらゆる業界で研究し尽くされていて、効果的な防止対策のセオリーが確立しています。誤薬事故や送迎車からの降ろし忘れ事故も死亡事故につながるため、これらの防止対策の手法を取り入れています。

 

従来、事務作業ミスは大きな損害につながることが少なかったので、職員個人の努力に任されてきましたが、最近は個人情報の漏洩など大きな事故につながりますから、このセオリーを取り入れなければなりません。こうした事故の防止対策をご紹介しましょう。

 

 

まず、ヒューマンエラー事故は「人のミスが原因で事故が発生した」と見えるので、「ミスをしないように注意して」という防止対策になってしまいます。しかしヒューマンエラー事故の対策のセオリーでは、ミスと事故と損害を分けて「ミスが原因で事故が起こり、事故の結果損害が発生する」と考えます。そして「ミスを防ぐ対策」「ミスが起きても事故につながらない対策」「事故が起きた時損害を防ぐ対策」という3つの対策を講じるのです。

 

例えば誤薬の防止対策では、まず「薬の取り違え」と「人の取り違え」というミスを防止する対策を講じます。次に取り違えミスが起きた時服薬直前のチェックによってミスを発見し、誤薬事故につながらないようにするチェック対策を講じます。そして最後に、誤薬してしまった時に損害を防ぐために、迅速に受診し身体への薬の影響を防ぐ対策を講じるのです。

 

 

 

■事務作業ミスの対策

では、事務作業ミスではどのようにこのセオリーを応用したら良いでしょうか?

 

例えば事務職員が利用者の個人情報の帳票をケアマネジャーにFAXする時、送信先の入力を間違えて誤送信したとします。まず、なぜミスが起きたのかを考えます。送信先のFAX番号を手入力すれば間違いが起こりやすいため、あらかじめ短縮登録して送信確認を行った上で短縮番号送信すれば入力ミスが防げます。FAX番号の入力画面が見やすい機器であることも、ミスを防ぐためには重要です。

 

次にミスをした時にミスを発見するためのチェックの仕組みを作ります。例えば、「個人情報を送信する時には必ず他の職員が立ち会って、送信先をチェックする」というルールを作っている会社は多くあります。

 

最後に、誤送信してしまった時に損害につながらないようにするにはどうしたら良いでしょうか?まず、誤送信に早く気付いて送信先に連絡を入れて書類を回収することが必要ですから、送信後のFAX番号チェックが重要です。また、FAX送信送付状の右上に「本状に心当たりがない場合は、送信元にご一報いただきますようお願いします」と書いている会社もあります。

 

先日市から届いたハガキの表面にも同じような表記がありましたし、ネット通販の小包にも同じことが書いてありました。これは宅配業者や郵便配達の誤配が起きた時にも有効な対策です。

 

 

 

事故は個人の注意ばかりでなく、仕組みを作って防ぐことを考えなければなりません。このような事故防止の仕組づくりの発想が無い会社は、リスク対策を従業員の注意力だけに依存しているのですから、極めて無防備な会社と言うことになります。

 

 

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」など

 

 

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