「住まい×介護×医療展2022」内では合計7つの座談会が行われた。その中のひとつが、高齢者住まい事業者団体連合会(以下:高住連)の協力で行われた「高齢者向け住まい等の紹介事業のあり方について~紹介事業者届出公表制度の創設を踏まえて~」。

高齢者住宅運営者にとって欠かせない存在となっている高齢者住宅紹介事業者(以下:紹介事業者)の理想的な在り方について、高齢者住宅運営者、紹介事業者が意見交換を行った。

 

 

 

 

紹介フィー設定に悩む施設

座談会は、長谷工総合研究所の吉村直子取締役主任研究員が「高齢者向け住まい等の紹介事業のあり方について~紹介事業者公表制度の創設を踏まえて~」と題した基調講演を行い(囲み記事参照)、その後、各パネリストが意見交換をする形式で行われた。

 

 

まず、議題となったのが、「高齢者向け住まい紹介事業者届出公表制度」に基づき届出を行っている紹介事業者数の287という数字。

これについて紹介事業者であるソナエルの田中宏信取締役は「私が保有するデータでは、全国に紹介事業者は約400存在している。そこにいかに近づけていくかが課題ではないか」と意見。これに対し吉村氏は「400のうちの287というのは評価に値する結果ではないか。あとは登録するメリットをいかにアピールできるかがポイントになると思う」との見解を示した。

 

「400全ての届出を目指すべきか、ある程度の届出が行われたところで紹介事業者の質の向上を図るべきか、という議論は高住連の中でもあったが、最終的には後者を選択した」と言及したのは高齢者住宅運営者ユカリアの中村健太郎高齢者事業オーナー。「届出がなされていることが、良質な紹介事業者を見極める指標の一つになれば。一般消費者はこれまで紹介事業者の質を判断できる指標が全くなかった。ケアマネジャーやソーシャルワーカーも同様」と指摘した。

 

高齢者住宅運営者マザアスの吉田肇社長は「高齢者住宅は、紹介事業者全体よりは、相談スタッフ個人の質が気になることの方が多い」とコメント。「最終的には紹介件数など客観的な数値で紹介事業者をランク付けできるようになれば、契約更改などの際の判断材料になる」と希望を述べた。

 

紹介事業者LIFULL seniorの泉雅人社長は「届出制度で、紹介事業者の概要ぐらいは消費者に対して『見える化』できた。あとは消費者が求めるのは『自分にどれだけあった高齢者住宅を紹介してくれるかどうか』という点。ここまでの情報を集められるようになれば理想的」と届出制度に期待した。

 

 

 

「キャンペーン」実施には賛否も

 

高齢者住宅と紹介事業者の関係性も議論のテーマとなった。

 

紹介事業者の東京ロイヤル嘉門桂介護統括執行役員は「見学同行の有無など、紹介事業者により仕事の中身はかなり違う。こうした中で『紹介フィーをどの程度に設定すればいいのかわからない』という声は多い」と、紹介事業者との付き合い方に悩む高齢者住宅が多いことを指摘した。

 

また高齢者住宅が一時的に紹介フィーを引き上げる「キャンペーン」については、田中氏は「キャンペーンをしなければならないホームは、どこかに問題があると考えている。当社は本当に良い高齢者住宅には紹介フィーがゼロでも入居者を紹介することがある」とフィーの高さで紹介する高齢者住宅を決める手法に対して疑問を示した。

 

嘉門氏は「本当ならばどこの高齢者住宅もキャンペーンはしたくないはず。そうした高齢者住宅のSOSには応えてあげたいと思う。しかし消費者の懐具合などを考えない紹介になる可能性もある」と、慎重な対応が必要との見解を示した。

 

中村氏は「世田谷区や杉並区などでは紹介フィー100万円などといったケースもあるが、決して紹介会社が高齢者住宅の足元を見ているわけではない。余りにも個別の事情に両者の関係性が左右され過ぎていないか。紹介事業者が団体を作るなど、もう少し安定した関係性を構築できるようにすべき」と提言した。

 

吉村氏 基調講演要旨

現在287事業者が届出済

高齢者住宅のストック数は2018年で約190万戸。65歳以上の人口の6.5%に相当する。しかし、サービス付き高齢者向け住宅の90%が要介護者向けであることを考えると、65歳以上人口に対する割合では実態にそぐわない。75歳以上、85歳以上など要介護状態になっている人が多い年齢層に対する供給割合を新たな指標とすべきではないか。

このように、高齢者住宅の数は増えているが、一般消費者にとっては入居に関する情報を「何から」「どのようにして」集めていいのかわからないというケースが多い。こうした中で高齢者住宅紹介事業者(以下:紹介事業者)の必要性は高まっており、同時に高齢者住宅側にとっても入居者獲得に欠かすことができないツールとなっている。例えば、首都圏・近畿圏の介護付有料老人ホームでは新規入居者の50%以上が紹介事業者経由となっている。

 

その一方で紹介事業者の「質」が問われるようになってきている。17年に経済産業省は「紹介事業は宅建業法に該当しない」との見解を示しており、今日までも何らかの法規制をかける動きもないため、結果として紹介事業者については「透明性」「公平・中立性」「相談対応の質」などについて課題が多い、と指摘される事態となっている。

こうした中で高齢者住まい事業者団体連合会(以下:高住連)では20年に「高齢者向け住まい事業者届出公表制度」を創設した。紹介事業者に①名称・代表者名・所在地・連絡先、②総相談員数、③契約法人・ホーム数、④相談拠店総数、⑤中心となる相談方法などの各種情報を届け出てもらい、高住連のサイト上で公表するもので、現在287事業者が届出を行っている。消費者・ケアマネジャー・高齢者住宅が紹介事業者を選択する際の指標としての役割を果たすことが期待されている。

 

個人的には、時間を要するかもしれないが、高齢者住宅紹介に関する資格制度の創設など、紹介事業については何らかの法整備が必要であると考えている。また、それに合わせて、複雑すぎる高齢者住宅の種類・仕組みを整理することも必要なのではないか。

 

スポンサーリンク

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう