社会福祉法人こうほうえん(鳥取県米子市)は鳥取県と東京都を拠点に、介護、保育、障害、医療サービスを総合的に提供してきた。業界に先駆け幼老一体型複合施設を開設。近年では団地再生事業や中国の介護事業者との提携なども行う。
コロナ禍においても新事業を進める廣江晃理事長に話を聞いた。

こうほうえん
廣江晃理事長
フレイル予防、協議会設立 DXで認知症増加に備え
──2020年に開始した中国の福祉事業者との提携、団地再生事業の状況は。
廣江 現在、2名の職員をコンサルタントとして中国現地の提携先企業に派遣している。社会福祉法人の存在意義に鑑みても、現地で合弁会社などを作って介護事業を行うことは考えていない。日本式介護の技術を中国で教育すべくコンサルタントを中心に進めていく予定だ。
団地再生事業に関しては、多世代交流の中核となる施設の建設を進めている段階だ。当然ながら、団地の住民は時間の経過とともに高齢化が進む。米子市全体で見ても、64歳以下の人口は減少する一方で、高齢者の人口は過去17年で1.5倍になった。団地再生には、常に色々な世代が入る仕掛けが必要。それと並行して、高齢者が最期まで暮らせる仕組みづくりも重要だと考えている。
──「最期まで暮らせる仕組み」に関して、新事業を開始した。
廣江 昨年から、米子市の警備会社やスーパーマーケットと提携し、主に要支援1~2の高齢者をサポートする体制構築を進めている。現在は実証実験を重ねている段階。地域包括支援センターやケアマネジャーから買い物支援や見守りを必要とする高齢者の情報が入れば、当法人が提携各社のサービスとつなぐ。法人の訪問ヘルパーが「生活コーディネーター」の役割を果たし、訪問時に提携するスーパーのネット注文をサポートするなどを想定している。
見守りシステムなどは様々な企業が展開しているが、普及していると言えないのが現状だと思う。福祉事業者が高齢者向けサービスを展開する企業と高齢者の間に介在することで、これらのサービスの導入、活用が進めばと考えている。
自身が望んでいないにも関わらず施設に入居する人、持ち家がありながら施設に移る人などは、なるべく自宅で過ごせた方が良いのではないか。まずは在宅、難しい場合は施設に入居する――そうした流れができる体制を考えていく姿勢は常に持ち続けてきた。
──介護予防にも注力している。
廣江 1年ほど前、米子市で「米子市フレイル予防推進協議会」を地元の法人、企業十数社と立ち上げた。ソフトウェア会社や銀行、テレビ局、百貨店など多業界から集まっている。「自動車免許のように誰もが必ずフレイルチェックを受ける仕組み」「対面とオンラインシステムを併用したフレイル予防体操」などを考えている。
――今後について。
廣江 認知症の人の増加ペースを見ながら、展開する介護施設のバランスやサービスの在り方を調整していく必要はあると考えている。例えば、現在グループホームや特養などで定められているユニットの定員数には、さほど根拠がないように思う。
今後国でも検討が進むと思うが、人材不足の中増加する認知症患者に対応するためには、1ユニットの定員数を増やすなど施設職員を柔軟に配置できる施策が必要だろう。国の動向に合わせ、施設の建て替え、改修などで対応したい。
ICT活用もより重要になってくる。記録ソフトや眠りSCANなどの導入を進めてきたが、今後ナースコール連動のインカムの活用や、データ入力がスマートフォン1つで完結する環境整備を進める。
しばらくは新規開設というより、在宅サービスの拡充に主軸を置く。コロナ禍で新たに発見できたこともある。小規模多機能型居宅介護は、柔軟なサービスの組み立てで感染症の流行時も安定した稼働ができることがわかった。この発見は今後の事業に生きてくるだろう。
これまで色々なことに挑戦してきたが、常に「やりがいがあるか」「面白さがあるか」という視点があった。これからも〝公共財〟としての社会福祉法人が地域の中で何ができるかを考え、進んでいきたい。