マッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務した後、在宅医療の道に進んだ医療法人社団鉄祐会(東京都文京区)の武藤真祐理事長は「医療の現場にイノベーションを起こしたい」と語る。在宅医療に力を注ぎつつ、オンライン診療システムの開発や在宅での治験の実施など、医療分野のイノベーターとして活動している。

医療法人社団鉄祐会
武藤真祐理事長
同法人は東京都文京区、豊島区、港区を中心とした7区と宮城県石巻市に、在宅医療の「祐ホームクリニック」を展開している。患者数は約1900名。終末期の患者も受け持ち、昨年は約350名を看取った。
武藤理事長は、東京大学医学部附属病院、三井記念病院で10年間勤務した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに。そこで経営コンサルタントとして活動する2年間で、問題解決能力や組織づくりなどの力を高めた。「その後、自分が抱いていた『患者に寄り添う医療』を実践するため、2010年に祐ホームクリニックを開業しました」(武藤理事長)。
法人の特色として挙げられるのが、教育、臨床研究、新たな医療技術の開発、治験をそれぞれ行う4つのセンターを持つこと。「医局のような機能を持ちつつも、時代に即した新しいことに取り組めるようにしています」と武藤理事長は言う。
そうした活動で生まれたのが、オンラインで疾病管理が可能な「YaDoc(ヤードック)」というシステムだ。武藤理事長は在宅医療の現場で、医師が顔を見せることで本人や家族の不安が大きく和らぐことに気づく。同時に、月1~2回の診療で患者の状態を把握しきることを難しく感じた。その折、医療テクノロジー分野の事業を展開するインテグリティ・ヘルスケア社の園田愛社長との出会いがあり、同社の会長に就任。そしてYaDocの開発に至った。

武藤理事長が開発に携わったオンライン診療システム「YaDoc」
YaDocにはビデオ通話によるオンライン診察に加えて、体重、血圧、脈拍などの数値、病状などを患者が日常的に記録できるモニタリング機能、患者に合わせてカスタマイズ可能な問診票機能を盛り込んだ。
ビデオ通話は映像の質と安定性を重視し、あえて外部ツールのZoomを使用。ユーザーエクスペリエンスを第一に考えている。「医師の視点では、モニタリング機能で訪問から次の訪問までの空白期間の様子が分かり安心感が得られます」(武藤理事長)
このシステムは同法人に加えて、全国の病院など3700ヵ所以上で導入された。現状、オンライン診療の点数は対面に比べて低い。しかし、武藤理事長は点数の低さより医師患者の感じる利便性の方が上回ると考え、今後も全国で導入は進むとみている。

日々のデータを記録できるため、訪問から次の訪問までの空白期間の様子を把握しやすい
新薬開発に貢献 今年新法人設立
19年、法人の新たなプロジェクトとして「治験センター」が立ち上がった。ここでは、「分散型臨床試験(以下:DCT)」に取り組んでいる。これは医療従事者が患者のもとを訪問しての薬剤投与や状態把握、オンライン診療などを通じ、在宅で治験を行うもの。患者を集めやすく、脱落が少ないという点でコスト軽減やスピーディーな開発に貢献する。
日本においては6月、内閣府の規制改革実施計画の中で、治験の円滑化についてDCTが取り上げられている。そこでは、厚生労働省はDCTで必要となる訪問看護師の確保の方法について整理し、必要な措置を講ずる、としている。
それに先立ち、インテグリティ・ヘルスケアは今年2月、訪問看護師と必要なオンライン診療システムをパッケージで提供する子会社DCT JAPANを設立。さらなるDCTの推進を図る。
武藤理事長は「今後、誰もが自分の健康を自分でマネジメントできる社会を実現したい」と語る。それに向けて、医療とテクノロジーを掛け合わせ新たなサービスを開発していく。