「住まい×介護×医療展2022」で行われたシンポジウム・パネルディスカッションの1つが一般社団法人シニアビジネスネットワークの協力で開催された「コロナ禍における在宅介護・介護施設の看取り」。コロナ禍で病院以外での看取りを希望する本人・家族が増加していると言われている。現場ではそれらの声にどのように対応しているのか、看護師や医師が意見交換をした。
在宅死の希望者63.5%と多数
冒頭で、ファシリテーターの国際医療福祉大学大学院白澤政和教授が「在宅死を希望する人は63.5%いるが、実際に在宅で最期を迎えている人は15.7%となっており、大きなギャップがある。『本人の希望にいかに応じるか』が医療・介護関係者には求められている」「また、年々独居高齢者が増える現状を踏まえた在宅看取りの体制構築も考えなくてはならない。その地域の在宅医療の整備度合いと在宅での看取り率の間には相関関係がある。ターミナル期までしっかり対応できる訪看が必要になる」と、在宅看取りに関する現状や課題を説明。座談会の検討課題として以下の5点を示した。
○看取りの体制をどのように準備しているのか(研修や職員体制、連携)
○本人の看取り希望の確認をいつから行うのか。どのような状況で再確認していくのか。
○どのようにして、本人の意思決定支援を行っていくのか。本人が意思表示できない場合には、どのように対応するのか。
○どのようにACPを作成しているのか。
○コロナ禍で、看取り件数に影響はあったのか。施設では家族との面会等でどのような工夫をしたのか。
これを受けて、各パネリストが自身の業務内容や看取りの現状を説明した。
コロナ禍で在宅看取りのニーズ増加
聖隷訪問看護ステーション藤沢の米倉直美所長は、10名の看護師と1名の理学療法士で120名の利用者を24時間体制で対応しており、そのうち9割を在宅で看取っていることを説明。
「特にコロナ後は『病院にいると面会が難しい』との理由から、在宅看取り希望者が増えている。一方で在宅療養をすると家族などを経由してのコロナ感染の可能性が高くなる。スタッフの感染対策も重要になる」とコメントした。
Recovery Internationalの柴山宜也業務部部長・ステーション管理者は「96名の看護師と88名のリハビリスタッフで24時間・365日対応しているが、やはりコロナ後は在宅看取りが増加している。今年は100名を超える見込み」と、コロナの影響について言及。
自費での訪問看護サービスに注力している日本プライベート看護の黒澤祥江管理者は「コロナで『自宅に帰りたい』と希望する入院患者が増えている。病院側も積極的に自宅に戻ることを呼びかけており、急な退院による看護依頼が増加した」と、臨機応変に対応できる力が訪看には求められている現状を説明した。
湖山医療福祉グループの小松順子経営理事は、今回のパネルディスカッションに合わせてグループ内の施設に対して実施した、看取りに関するアンケート調査の結果を報告。「コロナでも看取り時にはなるべく直接面会できるようにしているが、実際にはそれが難しいケースもあり、利用者や家族の思いがどこまで反映されているのか疑問」「また、嘱託医の方針、看取りに関する家族の意思確認をどこまで行っているかなど、施設間の差が大きかった」と問題点を指摘した。
医師の立場で参加した医療法人社団ききょう会 巣鴨ホームクリニックの清水健一郎理事長は「コロナでの入院生活は制約が多いこともあり『何かあっても病院ではなく在宅で』と意識が大きく変化した」と言及。またACPのガイドラインについては「よくできているが、それを実際に現場で活用していくには問題・障壁が多い。例えば家族にとっては介護負担増につながる可能性もあるため、丁寧な説明や協力依頼が重要になるのでは」との見解を示した。
ACP「家族の意思」優先の傾向強い「家族に多くを背負わせない」が重要
ACPへの意識、地域でバラツキ
そのACPについて、小松氏は「あまりにも家族の要望を聞きすぎしまっていて、本人の意思・意欲を無視しているケースが多いと感じる。本人の意思を正面きって聞くことは難しいので、本人が日頃発している言葉をいかに聞き取るかが重要」と指摘。柴山氏は「特に地方ではACPに関する意識が低いと感じることがある」とし、地域の看取りに関する認識の差をどう埋めていくのかが重要であると提言した。
ここで、白澤氏が「看取りに際しては、医師・看護師・家族以外にはどのような連携が重要か」と新たなテーマを提起。これについて黒澤氏が「ケアマネジャー」としたが「中には『保険外に関するプライベートな情報はいらない』と言う人がいる」などケアマネの意識がバラバラであることを問題視した。
柴山氏は「今はケアマネやヘルパーも、コロナで訪問を制限されることもあるため利用者の情報を欲している。彼らとのネットワークづくりが重要になる」とコメント。米倉氏は「それに加えて、近隣住民の力が重要になるのでは」とした。
家族の介護力はどこまで必要か
「在宅での看取りに家族の介護力は、どの程度必要か」については、清水氏は「訪問看護師・ヘルパーの協力があれば、老夫婦のみでも何とかなるのではないか」と、米倉氏は「家族が在宅での看取りのどこに不安や不満を持っているのかによって違ってくるのではないか。その点についてしっかりと話し合える関係づくりが大事になると思う」とコメントした。
小松氏は「特養でも看取り時に自宅に帰ってもらうことはあるが『家族には大きな期待をしない・負担をかけない』ことを心がけ、1日に1回は訪問している。これなら大概の家族が頑張れるのではないか」と、家族にあまり多くを背負わせないことが重要と指摘。これについては柴山氏も「家族には『あまり頑張りすぎないで』と伝えることが重要」と同意した。