家賃を減額された若い入居者たちが、同じ建物内の高齢者と共同生活を営む「共生型多世代住宅」が新しい住まい方として始まった。割安家賃の条件は、若者が高齢者に声を掛けたり、共用食堂で食器の片付けなどを手伝うことだ。

 

 

神奈川県藤沢市の2階建てアパート「ノビシロハウス亀井野」。全8室で、1階に3人の高齢者、2階に若い男性2人が住む。隣接する建物の1階カフェに全住民が毎月1回集う。

 

その日曜日のお茶会。「新しい入居者が来られてますから自己紹介から始めましょう」という声で、8人が話し出す。終えると雑談に花が咲く。2人の若者は、外出や帰宅時に高齢者に声を掛けで安否確認も兼ね、お茶会では主宰者となる。「ソーシャル・ワーカー」の役割を担い、これが、通常家賃の半額、3万5000円の入居条件である。

 

お茶会は「ノビシロハウス」の隣のカフェで開かれる

 

 

 

20歳の大学生は「高齢者と話していると、僕の方が元気をもらう感じです。この方式はとても気に入っています」と話す。減額された家賃は高齢者の部屋の家賃に上乗せされている。3人の高齢者のうち1人の80歳代男性は要介護者でデイサービスに通っている。2人の女性高齢者は介護保険を使わない自立者だ。

 

建物所有者の加藤忠相さんは、株式会社「あおいけあ」の代表である。すぐ近くに住み、自宅敷地内で認知症グループホームと3つの小規模多機能型居宅介護を運営している。

 

アパートを買い取りバリアフリーに改修、昨春に開設したのがノビシロハウス。隣接棟は、1階にカフェとコインランドリー、2階は在宅医療の診療所と訪問看護ステーションを誘致。若者の生活サービスと高齢者向け医療という斬新な組み合わせだ。地域づくりの先駆例と言えるだろう。

 

診療所は、首都圏で在宅療養支援診療所を大展開している医療法人、悠翔会(佐々木淳理事長)の運営だ。お茶会に駆け付けた渡部寛史院長は、談笑の輪に溶け込み「一緒のどこかへ行けるといいですね」と高齢者に気さくに声を掛けていた。

 

 

 

東京・自由が丘の住宅地には、子育て中のシングルマザーが高齢者たちと共同生活を送る多世代シェアハウスができた。住宅型有料老人ホーム「オーナーズテラス自由が丘」を中核に、3つの集合住宅に7人の高齢者と2組の母子家庭、それに留学生などが住む。手掛けるのは一般社団法人HAHA。

 

代表の伊藤敬子さんは「働く女性への育児支援と介護付き有料老人ホームよりも自由な生活を送りたい高齢者を結び付けた」と狙いを話す。3年前に始めた。共有のリビングダイニングで、子どもたちは遊び友達になり、その動きに高齢者たちの暖かい視線が注がれる。コロナ禍に直面し食事時間をずらしているが、世代を超えた交流は続いている。

 

高齢者は10万9000円の家賃のほかに、食費や共用部利用料などで月額約22万円を支払う。入居金として別に300万円必要だ。一方、シングルマザーの家賃は7万円。食事後の片付けを週2回義務付け、かなり安くした。

 

 

家賃を割引きして高齢者との交流を促す多世代型共同住宅は、20年も前に名古屋市で誕生した。社会福祉法人「愛知たいようの杜」が2003年4月に開設した「ぼちぼち長屋」である。

 

当時の理事長、吉田一平さん(現・長久手市長)が、「要介護者のケアには職員だけでは質量ともに十分とはいえない。世代や属性を超えた地域のいろんな人が交じり合うのがいいし自然な姿だ」と考え始めた。

 

1階には13人の要介護高齢者、2階の4部屋には働く単身女性という組み合わせだ。女性たちは外出時に高齢者に挨拶したり、時には食堂の席につく。こうした交流を前提に、本来6万円の家賃を4~5割下げている。

 

 

 

介護保険制度が浸透しケア付き住宅や施設が広がったが、高齢者だけでは、「普通の暮らし」とはいえない。多世代共生を目指し、「互助」の仕組みを意識的に作る動きは注目される。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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