鍼灸師の桑名一央先生いわく、東洋医学の本質は「バランス」にある。そして「バランスを取る」とは、すべてが完全に調和されてぴたりと静止した状態ではなく、動き続け変化し続けることを意味するというのだから何とも奥深い。まるでパラドックスのような東洋思想の面白さと、薬を飲んだり病院へ行ったりする代わりに鍼灸治療を受けてみるなど、普段の医療に東洋医学を組み込むことの有効性について伺った。

 

 

 

不調和こそが活力の源

 

――東洋医学のベースにあるのは、どのような考え方ですか?
東洋医学は、もともとは東洋哲学です。地を表す「陰」と天を表す「陽」のように、森羅万象のすべてを2つに分けて二項対立で考える陰陽思想に「人間」という要素が加わり「天・地・人」と三分類されて、さらに万物を「木・火・土・金・水」の五要素に分類する五行説へと進化していきました。この五行に「肝・心・脾・肺・腎」の五臓六腑を配当し、五角形のバランスを保つ方法を医学に応用したのが東洋医学です。

 

気の運動の基本は、「昇降出入」。昇り、降り、外に出し、中に入れます。この順番を守らないと身体はうまく動きません。また、体内の流れを澱ませないためにはバランスが必要で、この「バランス」とは動き続けていることを指します。身体の中も、時間や春夏秋冬といった季節も、さまざまな陰陽のバランスに同調して動き続けています。

 

 

西洋では、パワフルでエネルギッシュに動けることが「健康」なんですが、東洋医学でいう「健康」は、平穏無事で〝のほほん〞とした仙人みたいな状態なんです。パワフルに動くというのは陰陽のバランスを無理に変えることになるので、実は良くない。メディアで「プラチナ世代」なんて言ってますが、まぁ東洋医学的に見ると、「死ぬぞ」「壊れるぞ」と(笑)。東洋医学の理想は、中庸なんです。

 

 

「陰陽太極図」を囲む五行。木が燃えて火になり→火が燃え尽きた後は土に帰り→土の中から金属が出て→金属が冷えたところに水滴がつき水が生まれる
(本人提供)

 

 

 

陰と陽の振り幅が大事

 

――では、「中庸」とはどういう状態でしょう?
人の人生には、たとえば活動的に遊びまくるような「陽」の要素と引きこもって非活動的である「陰」の要素の両方が必要です。それぞれに振り幅があっていいと思うんですが、両方をやり切って、最後〝真ん中〞にたどり着くことが「中庸」なのかな、と。

 

だから、逆にそこにたどり着けないのは、どっちかが足りてないんじゃないかと思います。よく正論を振りかざすおじいちゃんているじゃないですか? でも「正論」が本当に〝正しい〞かどうかを判断するのって、いたずらしてきていないと分からないと思うんですよね。

 

現在50代半ばからちょっと上世代の方々の「打たれ弱さ」を感じます。体調不良にものすごく怯えるんですよ。あの辺の世代はイケイケドンドンで結構人生を謳歌してきたのかなと思いますね。だから「パーフェクト幻想」のようなものに囚われているのかもしれない。パーフェクトな状態からちょっとズレるとすごく不安になっちゃうという。

 

 

――「完全」て「不完全」を含むからこそのものではないかと思いますけれどね。多くの人が〝パーフェクト〞を目指してあれもこれもと頑張っています。
無駄無駄って(笑)。そもそも身体は不完全でないと動かないんです。「陰陽太極図」(写真)というのは変化を表しているのですが、陰陽のバランスが調和しすぎると「円」になって動けなくなってしまいます。アンバランスであることが、起動のエネルギーになるんです。

 

もともと「ホメオスターシス(生体恒常性)」という仕組み自体がストレスを飲み込むための機構で、身体のバランスは乱れるという前提のもとに設計されています。だから過度に調和された環境にいると「なんか暇だなぁ」みたいになって、必要ないところで働こうとするんですね。これがアレルギーです。無菌室みたいなところで育った子どもはアレルギーを起こしやすいんですが、外側から必要以上にバランスを与えられてしまうと、身体はおかしくなってしまいます。

 

 

たとえば玄米って、身体の中の余計な物質を外に出す作用が結構強いので、摂りはじめの頃は調子が良くなったりします。玄米食に変えたら一瞬がんが小さくなったなんて話もよく聞きます。でも人間の身体っていずれはそこにも適応しちゃうから、また変えていかないと次の段階には進めない。1つのパターンに固着しちゃうと変化が起こらなくなってしまうんです。

 

 

「未病の治」から地域貢献を

 

――バランスということで言えば、今後、西洋医学と東洋医学の共存がますます大事になりそうです。
今の西洋医学は、命に関わる病気や日常生活動作(ADL)に影響する疾患に対して非常に効果的ですが、QOL(生活の質)の問題はどうしても残ります。ここは、さまざまな事象と身体とのバランスを取っていく東洋医学が得意な分野なのかな、と思います。

 

どんなに調子が良くてもそれは「未病」の状態で、「未病を治す」のが東洋医学です。病院に行くほどではないけれど「ちょっと変だな」という段階で早くから〝町の治療院〞が介入し、加齢による心や身体の衰え(フレイル)を未然に防ぎつつ、何かあったら病院を受診してもらうといった形で車の両輪みたいにうまく連動していけるといいですよね。

 

 

地域包括ケアというのは主治医あっての話ですので、まず主治医を見つけることが最初のハードルだと思っています。治療院や接骨院などが主治医を見つけるサポートを行える体制が整えばいいんですが、なぜか僕らは地域包括ケアシステムには入れてもらえていないので、今はこれが難しい。

 

将来的にリソースとして活用してもらうことで、うまく地域に貢献していきたいですね。

 

聞き手・文 八木純子

 

鍼灸マッサージ師
くわな鍼灸治療院
東邦大学医療センター
大森病院桑名一央(かずひさ)さん

 

 

 

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