なぜ同じ事故が繰り返されるのか?
9月5日、幼稚園で送迎バスから園児を降ろし忘れて死亡させる事故が起きました。なぜ、同じ事故が繰り返されるのでしょうか?
理由は2つあります。1つ目は、これらの業界の事故防止対策の考え方が遅れていて、ヒューマンエラー事故の対策が、職員の注意力に委ねられていることです。ミスがそのまま人の死に直結するような業務の仕組みが放置されているのです。2つ目は、過去の降ろし忘れ事故の徹底した原因分析がされていないことです。降ろし忘れミスだけが原因ではなく、ミスをチェックする仕組みが無いことも事故原因なのです。
本連載では2回に分けて、降ろし忘れ事故の防止対策を考えます。
■降ろし忘れ事故の防止対策の新しい考え方
ヒューマンエラー事故の防止対策は、図①のようにミスと事故と損害を分けて考え「ミスが原因で事故が発生し、事故の結果損害が発生する」と考えます。
このように3つに区分した上で、図②のように対策も3つに分けて考えます。すなわち、「ミスを防ぐ対策」「ミスが起きても事故につながらない対策」「事故が起きた時損害を防ぐ対策」という対策を講じるのです。
以上のように3つの対策を重ねて講じれば、ミスが起きてもそのまま事故に直結しませんし、事故が起きても損害を軽減できるのです。鉄道や航空機など多くの人の命にかかわる大規模な事故につながる業種では、安全対策を何重にも重ねて講じるのが鉄則なのです。
実は私たちが運転する自動車の安全設計には、この3つの考え方が活かされています。障害物に近づくと鳴るアラームは「ミスを防ぐ対策」、ブレーキと間違えてアクセルを強く踏んでも急発進しない機能は「ミスが事故につながらない対策」、手を挟むと自動的に停止するパワーウインドウは「事故が起きても損害を防ぐ対策」なのです。
■過去の事故の原因分析と問題点
次に事故原因を分析して問題点を挙げてみましょう。どの事故も運転手が利用者を降ろし忘れたことが直接原因なのですが、その後に降ろし忘れに気付くことができる場面はたくさんあり、その全ての場面でミスが起きているのです。
1.利用者の降車介助で最後部座席を見ていない
まず、送迎車が施設に到着した時に利用者の降車介助をしますが、この時職員が車外から介助している場合があります。スライドドアを開けて覗き込んだだけでは最後列の座席は全く見えませんから、降ろし忘れても気づきません。
2.降車介助終了時に車内を点検していない
送迎車が施設に到着して利用者の降車介助をしている間は、バタバタして一人ひとりの氏名や降車者の人数を確認することは困難です。全員が降車した後に後部座席内に入って座席を確認しなければ、横たわっていたり転落している利用者を発見できません。
3.送迎車の駐車・施錠時の確認をしていない
降車介助が終了した後は、送迎車を駐車スペースに移動させて、車両を施錠して送迎業務を完了します。降車介助時に降ろし忘れても、送迎車駐車時に車内をもう一度点点検していれば発見することができます。
4.施設内職員による出欠確認と不在認識時の連絡を怠っている
運転手が降ろし忘れても、施設内の出欠確認で不在に気付いて家族に連絡すれば、長時間車内に放置する前に救出できるのです。利用者の出欠確認と不在時の家族連絡を怠っていたことが、過去の事故では降ろし忘れ以上に問題なのです。
以上4つの原因を踏まえると防止対策はどうしたら良いのでしょうか?次回では降ろし忘れ事故防止の具体策を検討してみましょう。
安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」など