医療法人心の郷 穂波の郷クリニック(宮城県大崎市)は、終末期の患者に対する在宅緩和ケアの実践に取り組んでいる。地域で暮らす患者を医療従事者だけでなく地域の住民とともに支える、市民参加型の「コミュニティ緩和ケア」体制を地域で構築している。
ボランティア活躍 専門職が支援調整
クリニックは機能強化型在宅療養支援診療所。がん末期患者への麻薬性の鎮痛剤を使用した鎮痛療法、がん緩和ケアの研修を修了した常勤医師を配置するなど、在宅の緩和ケアに特に力を入れている。昨年は自宅で97名の看取りを行った実績がある。加えて、居宅介護支援事業所、クリニック併設の別館「コミュニティケアハウスはるか未来館」で通所リハビリテーションを運営している。
内閣府が過去に行った調査によると、自宅で最期を迎えたいという人は54.6%。しかし、厚生労働省の調査では70%以上が病院で最期を迎えているという結果になっている。家族の介護力、地域力の低下などによって、在宅で患者を支えることが困難になっていることが推測できる。特に、同法人が位置する地域は新興住宅地であり、ほかの地域から移り住んだ若い世代が多い。住民同士の結びつきも希薄であった。
そうした背景もあり、クリニックでは患者の生活を支援しつつ地域住民を結びつける活動を数多く行っている。毎週火曜日に行われている「ライフカフェ」もその1つ。ここでは、地域住民が集まり手料理などを楽しみながら、話題性のあるテーマを基にワークショップを行う。がんや難病の当事者、グリーフケアを必要としている人、外来の患者、引きこもっていた人など、多様な人が参加する。また、地域の高齢者が療養環境の整備を支援する「おっぴさん倶楽部」や、患者の自宅や地域の小学校などで童話の演劇を披露する「ほなみ劇団」といった活動もある。

クリニックの庭では「ほなみ劇団」による演劇も行われる
クリニックはこうした活動によって地域住民を結ぶハブとなっている
このような場で生まれた、地域の市民団体やボランティアとのつながりを活かし、「市民参加型緩和ケア」をコーディネートしていくのが、「トータルヘルスプランナー」と呼ばれるスタッフだ。
トータルヘルスプランナーとは、日本在宅ホスピス協会(岐阜市)が認定するもので、地域の介護、医療の関係者、家族、民間団体などと患者を支える「チーム」を築き、その中で連携・協働・協調の橋渡しを行う。現在全国で約50名が認定されており、法人ではケアマネジャー、メディカルソーシャルワーカーなど3名が認定を受けた。
実際の例として、83歳男性の緩和ケアに際して、はるか未来館の館長でトータルヘルスプランナーでもある大石春美氏が、生活状況などを確認しながら、本人の不安や思いをヒアリング。同時に、医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーを始め、本人家族と近所の人々に呼びかけてチームを構成した。ヒアリングの中で、自宅の庭を大切にしており、現在は手入れが行き届かないことを気にかけていることが分かった。そこで、トータルヘルスプランナーが音頭をとり、患者宅の庭の整備に加えて患者宅を舞台にサプライズの朗読劇「花咲か爺さん」をチームで実施した。
その患者はクリニックに紹介された当初、前の医師との相性が悪く医療に不信感を抱き気持ちがふさがりがちになっていた。先述のような人々との交流を重ねることで、「人生の終末期を迎えたが、花咲く日々を送れている」と語り、気持ちが前向きに変化したという。
患者の思いを実現するのは医師の力だけでは難しい。患者の経済的な事情や家族の支援力、地域の資源が限られる、といった制約もある。加えて、自宅がゴミ屋敷と化しているなど、様々な困難事例に遭遇することも珍しくない。
三浦正悦院長は、「この地域ではトータルヘルスプランナーのネットワークを活かして、そうした課題を解決できるアイデアを持った人とつながることができています」と語った。
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三浦正悦院長(中央)とトータルヘルスプランナーの大石春美館長(左)、吉田香織氏(右)