中国は急速な高齢化に伴い、要介護者数も増加している。特に寝たきりの高齢者の入浴介助が課題となっている。
転倒リスクが高い入浴介助はヘルパーだけでなく、家族でさえも対応することができず、体を拭いてあげることしかできていない。
上海や北京のような都市部には、1980年代頃に建てられたエレベーターや浴室がないバリアだらけの団地が数多く残っており、高齢になると入浴が難しくなってしまうケースもある。中国は日本のようなお風呂文化はないが、寝たきりの高齢者の中には、10年以上もシャワーすら浴びることができていない人も少なくない。
5~6年前にこのコラムで「日本式訪問入浴サービス」について触れたことがある。当時は、「日本式訪問入浴」への認知度が低く、また料金が高いとうことで、需要が少なく、日系介護事業者は挫折を経験した。介護サービスの多様化および経済発展により、高齢者の「尊厳」や「QOL」により一層追求されるようになった今、「訪問入浴」が再び脚光を浴びるようになった。
上海などの主要都市では訪問入浴サービスが徐々に広がっており、事業者数は1000以上ある。「高齢者助浴師」という名称まで誕生した。

市場が広がっている訪問入浴
中国の訪問入浴を牽引しているのが、上海に本社を置く国内最大手の在宅訪問介護事業者「福寿康」だ。張軍CEOは、かつて日本の大学や介護施設で介護を学んだ後、中国で起業した。福寿康は、日本の介護事業者と連携し、訪問入浴ノウハウを学び、設備も全て日本製を導入。3人でチームを結成し、数チーム体制で市内においてサービス提供している。
料金は、1回499元(約1万円)。上海市内の一部地域では訪問入浴の補助金を出している自治体もあるが、この金額は上海市の高齢者年金の月額平均の1割以上であり、利用者の自己負担が重い。
準備からバイタルサインの確認、入浴介助、片付けまで約1時間半かかるうえ、複数人の人員が必要であることから、料金は決して高すぎるわけではない。「料金が高く、日常的に受けられるサービスではない」というユーザーの声も少なくないが、事業者にとっても、収益性が高い事業ではないのである。
巨大な市場が広がっている訪問入浴だが、収益性を高めつつ、利用しやすいサービスにするためには、国の制度などの策が必要だと専門家は言及している。
王 青氏
日中福祉プランニング代表
中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。