ポラリス(兵庫県宝塚市)、ゆず(広島県尾道市)、ケアクラフトマン(鹿児島県出水郡長島町)、3社の代表が意見交換・情報共有をしながら、それぞれ自立支援型デイサービスを新規開設するプロジェクトが9月から始まっている。その名も「三匹の子豚プロジェクト」。自立支援型デイを全国で運営するポラリスのノウハウを、ゆず・ケアクラフトマンへ提供し、資金調達方法や物件選び、収支計画、全KPI、人材採用・育成方法や改善事例など、経営のポイントをYouTubeにて順次公開している。

3者はそれぞれの強みを活かしながらどのようなデイを作り上げていくのか。今回は「売上・利益率」をテーマに語ってもらった。 

(取材日:2022年9月20日)

 

 

 

 

 

 

経営の鍵、YouTubeで公開

 

 

――どのような経緯で、3者でプロジェクトを実施するに至ったのでしょうか
川原 このメンバーは音声配信のSNSで知り合い、介護について語るうちに意気投合し、新しいデイサービス経営に挑戦しようとプロジェクトを開始しました。3社に資本関係はなく、自立支援の普及・拡大を加速させることを目的にタッグを組んでいます。
ポラリスのノウハウを享受しながら、3時間2回転の「自立支援型デイ(定員18名)」という共通点を持ちつつ、各地で各代表者が自身の考えを反映したデイをそれぞれ開設・運営していきます。事業所の名称については、「自立支援の芽を成長させる」という意味を込め、SPROUT(スプラウト)を3事業所に共通して組み込むことにしました。

 

 

契約50名で250万利益、半年間で黒字化へ

 

――三者三様のデイが楽しみですが、売上戦略についてはどのように考えていますか
 私は高齢者を元気にし、社会保障費を下げて持続可能な社会保障制度にしていく「自立支援」を追求しています。一方、事業者の中には、良いサービスを提供しても事業が続かないケースもあります。そういう意味で「利益を上げること」「リスクマネジメント」は重要であると位置づけており、この2つを続けることで自分達が提供したいサービスが成り立つと考えています。

 

大平 「半年間で契約者50名に達した段階で黒字化」という収支計画を立てました。しかしこれは相当頑張らないといけない数字ですね。今までの経験上では、利用者が月2名増加し、黒字には2年かかる肌感覚ですが、森さんに広告や営業のノウハウを教わりながら、まずは広い認知をとってこの数字を目指します。

 

 物件の条件にもよりますが、当社では「契約者50~60名に達した段階で黒字、その時の利益は250~260万円」という目標を定め、実際に達成しています。しかし「達成期間」においては1年半かかる事業所もあれば1、2ヵ月で到達する事業所もあります。

 

川原 ポラリスは全国展開しているので認知度が高いですが、私は今回、実績が全くない新天地で開設するので、どう広く認知するかがターニングポイント。私も半年で契約者50名を目指します。そこは、ポラリスのノウハウを忠実に再現できるか、全力を尽くしてやっていきます。

 

 つまり「デイサービスの成功要因は」ということだと思いますが、簡単に答えがでたら苦労しないですよね。もし答えるとするならば、鍵の1つは「トップの能力・器」。経営者の力量以上に会社は成長しません。2つめは「管理者」。良くも悪くも管理者で決まるというのは、確信しています。3つめは、「火をつけること」。1ヵ月目に登録した利用者を3ヵ月で元気にし、「結果を出したので次の紹介をお願いします」とケアマネに周知して、ファンにする。すると紹介・体験数がグンと伸びます。これを当社では「火がつく」と呼びます。着火タイミングを3、4ヵ月目にできれば、半年で黒字化が可能でしょう。

 

 

 

稼働率向上へロードマップ

 

――周知活動はどのタイミングから始めるのでしょうか
川原 まだハードができていないので周知していない状況です。マシンも搬入し、ある程度ハードができた月頃から始める予定で、現在はチラシ作りなどを進めています。

 

大平 川原さんはすごくおしゃれで良いパースを既に作っていたので、そのパースを活用しながら周知を今から進めていいかもしれませんね。

 

 当社では通常、オープニングスタッフ募集のときに地域の全世帯に折り込みチラシを配る、地域の無料の冊子に掲載するなど、まずは広く知ってもらうように進めます。きちんとした営業はスタッフが決まった頃の1ヵ月前から。内覧会用のチラシを配る、ケアマネに営業するなど、いかに内覧会で人を集めるかに注力していきます。

 

 

 

KPIに「人時労働生産性」

 

――次に、利益率を上げるための考えを聞かせてください
大平 厚労省の介護事業経営実態調査だと、地域密着型通所介護の全国平均の利益率は1.8%なので、それ以上は目指したいです。変えやすい固定費と変えにくい固定費がありますが、変えやすい広告費・旅費交通費・交際費などをいかに抑えるかですね。具体的に何をいくらにするかはまだ決めてないので、森さんに教わりたい段階です。

 

川原 利用者の契約数が増えれば利益率は上がると思っています。利益率よりも稼働率に着目して、まずは指標とする契約者50名をいかに達成するか考えているところです。

 

 当社は売上のうち本部への配布費が16%。そこから必要経費を引いて、利益を算出しています。人件費が大きく占めるビジネスですので、重んじるのは生産性。特に「人時労働生産性」というKPIをすごく重視します。介護業界でそのような指標を重視している経営者はまだ少ないのではないでしょうか。

 

 

 

――具体的にどのように「人時労働生産性」の指標を定めているのでしょうか
 当社では「売上÷総労働時間」で計算します。つまり1時間でスタッフ1人がどれくらい稼いでいるかです。個別性を重視した自立支援の実践は人手を要し、人件費はかかるものです。そのような中でも利益を上げるためには、いかに生産性を高めて人件費を抑えていけるかがポイント。うちでは3400円~3500円を目標としています。

 

大平 当社では稼働率が80%になると2800円程なので、森さんの3500円という数字はすごいです。

 

 4000円を超えている事業所もあります。要は、売上を上げるか、総労働時間を短くするかですが、「これをやれば」といった一律的なものはないです。利用回数を増やす、欠席率を減らす、加算を取得する、最適な人員配置、職員一人ひとりの分断のないオペレーションなど重要なポイントはたくさんあります。しかし高い「人時労働生産性」を半年~1年にわたってキープすることは容易ではないです。これまで培ってきたノウハウというのは確実にあるので、今後、YouTubeで公開していきます。

 

 

大平社長がYouTubeで公開する収支計画の一部

 

 

 

 

「自立支援」の結果を出す

 

――今後の展望・意気込みを教えてください
 「自立支援」だけは誰にも負けない自負があります。惜しみなく2人にノウハウを提供し、また、2人からも多くを学んできたいです。

 

川原 今後、「卒業する特養」の新規開設を構想しており、その目標を達成するツールとして自立支援型のデイをやっていきたいと思っています。きっと、3事業所ともに自立支援の結果を出し、利益も出すことになると思いますが、さらに同じような仲間を増やしたり、管理者の中で独立したいという人を応援したり、この取り組みを広げる、まさに「スプラウト」させていきたいです。〝夢があり、やってみたいと思える介護〟をこのプロジェクトを通して見せていきたいですね。

 

大平 「SPROUT」はデイだけでなく小多機などがあってもいいと考えています。このやり方に多くの会社に賛同してもらい、全国に広がったら嬉しいです。いいサービスを提供して、利益も出し、職員が活き活きと働ける仕組みをこのプロジェクトを通じて広めていきたいです。

 

 

 

オンラインでの座談会の様子

 

 

 

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