ドイツへの高齢者ケア視察を3年ぶりに再開した。9月上旬に北部のブレーメンを訪ねた。ドイツは日本の5年前に介護保険制度を始めた国である。税の投入はなく国民が保険料を支払う「保険」に拘る仕組みだ。キーワードは「自律」「自由」であろう。日本と比較しながら古都を回った。

 

入居者が集うテラスから裏庭に出られる(同社のホームページから)

 

 

 

「死」への向き合い方が日本と異なる。ホスピスや緩和ケア重視の姿勢を学びたい。

緩和ケアの際に患者の居場所は3種類ある。重度者向けの病院内緩和ケア病棟、それに「入所型ホスピス」、軽度者向けに自宅や集合住宅である。病院内の緩和ケア病棟がほとんどの日本とは違う。

 

ドイツでは、入所型ホスピスが病院と自宅の中間にあり、その存在感が大きい。それらの居場所に訪問するのは、医師がいるSAPV(専門的訪問緩和ケア)、看護師中心のAAPV(総合在宅緩和ケア)、それにAH(在宅ホスピス)である。SAPVには常駐の専門医がおり、AHは普通の市民で構成される。

 

 

今回視察したのは、SAPVが関わる入所型ホスピス、「ホスピス・ブリュッケ」である。週に2回はSAPVのチームから医師が訪問診療に来訪する。

緑の多い郊外に、貴族の館のような3階建ての豪邸。白い手すりのバルコニーが張り出し、窓枠には飾りが施されとても優美な雰囲気だ。かつて実業家の邸宅だったが、今では入居者8人、8室のホスピスに様変わりしている。

 

優雅な館の「ホスピス ブリュッケ」

 

 

玄関扉を開けると、白い壁に白い床、階段には赤いカーペットが敷かれ、富裕層の暮らしぶりがしのばれる。大改修して、各居室にはベッドの他に椅子とテーブル、収納棚が備わる。トイレ、洗面と一体のシャワー室は3畳余りのゆったりしたタイル空間だ。

 

 

玄関から2 階に向かう階段

 

 

SAPVから医師が定期訪問してくるだけに、入居者の98%はがんの末期患者。緩和ケア病棟からの転居者もおり、入居後1カ月以内で亡くなる人が多い。

 

蘇生や延命処置をしないのがホスピス。痛みや苦しみを取る緩和ケアに徹する。そのためにパートタイマーを含め看護師を17人もそろえたという。

 

 

これだけの居住環境と専門ケアを提供されて入居者の負担はない。利用料は医療保険から賄われる。厳密には95%が医療保険からで、後は事業者が拠出する。入居者一人当り1日500ユーロ(約7万円)かかるが、そのほとんどが医療保険から事業者に支払われるというから、相当に手厚い仕組みとみていいだろう。

 

「入居者たちの要望を聞き出し、できるだけかなえています」と看護師で施設長のケリス・シュネルさんは話す。「入居される前に私たちスタッフは必ず、本人や家族とお会いして、どのようなことを望んでいるかを聞き出します」。

その要望は、「海を見たい」「また自宅を見たい」「カフェに行って少しゆっくりしたい」……。入所前の普通の日常生活を味わえるように心掛けている様子がよく分かる。

 

落ち着いた入居者の部屋

 

 

 

「QOL(生活の質)を高めることに努力しています」とシュネルさん。「かつてあわただしい病院勤務を体験しました。私の仕事場ではないと感じて転職してきましたから」と振り返る。

 

日本とはかけ離れた心地良い環境。だが、説明を終えたシュネルさんが、突然「本当は高齢者施設でも同じようなことはできると思います。そうなればホスピスは要らないのでは」と話し出し、筆者を驚かせた。「施設スタッフの労働条件が良くなればですけど」と種明かしをする。

 

介護保険の報酬は医療保険ほど充実していないということだ。「入居者のQOLを高めたい」のは介護保険施設も同様。しかし投入される報酬に大差がある。本来なら、暮らし続けてきた介護保険施設で死を迎えるのがいいのに、というシュネルさんの思いは当然だろう。

 

 

 

日本人の死に場所は医療機関が67%。入所型ホスピスはほとんどないが、幸い、近年施設死が13%にまで急増した。介護保険制度が生み出したものだ。両国での2つの保険制度による死の迎え方の違いは考えさせられる。

(元日本経済新聞編集委員 ジャーナリスト 浅川 澄一)

 

 

居室内のシャワールーム。トイレと洗面も備え広い

 

 

 

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