医療だけでなく介護関係者からも関心を持たれた「かかりつけ医」の制度化問題が決着した。厚労省の諮問機関である社会保障審議会医療部会(委員23人、部会長・永井良三自治医科大学学長)が11月28日に開かれ、厚労省から「かかりつけ医機能が発揮される制度整備について(案)」が提出されたことによる。

 

6月7日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)の中で、「コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」との方針に対する答えである。

 

 

コロナ下で、発熱患者がかかりつけ医と思っていた近隣の診療所や病院で受診を断られたり、ワクチン注射を受けられなかった事例が続出。国民からの不満は高まった。

日本独特の自由に受診できる「フリーアクセス」への疑問が広がったのは当然だろう。かかりつけ医の役割を見直す審議が政府の「全世代型社会保障構築会議」でも始まった。

 

フリーアクセスと並ぶ自由開業、診療科の自由標榜制など日本の医療システムの土台の見直しまで筆が及ぶのか注目された。だが、ふたを開けてみれば二の丸、三の丸どころか外堀にも達しなかった。

 

 

財務省や健康保険組合連合会(健保連)が主張していた、かかりつけ医の認定制や登録制には全く触れていない。一定の機能を担保するために、研修受講や診療実績など数値に基づく認定制度があれば、住民は選択しやすい。また、どの住民も必ずどこかの医療機関に事前に登録していれば、診察の他にいつでも健康相談を受けられる。
住民と医師が常日頃から付き合いがあると、突然の病気や事故に遭っても対応しやすい。認定制と登録制は欧米で普及している「家庭医」(GP)制度では欠かせない要件である。

 

日本医師会は「かかりつけ医は患者さんの自由な意思によって選択されます」(4月20日に発表した「国民の信頼に応えるかかりつけ医として」)と示しており、登録の義務付けに反対している。選択の責任は患者にあると言う。
認定制については「最もふさわしい医師が誰かを、数値化して測定することはできません」(同)と、認定の公的な基準作りを強く拒絶している。こうした「壁」の前で、認定制と登録制に踏み込めなかったようだ。

 

 

 

今回の厚労省案で前向きな提案は3つ。ひとつは「かかりつけ医機能の定義を法定化」と謳ったことだ。具体的には医療法の中でかかりつけ医機能の定義を明文化する。
これまでは同法の施行規則(省令)で「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談を行う」とあるだけ。これを法律に盛り込んで格上げしても、抽象的な表現に過ぎず、具体的な責務規定はない。現場は変わらない。

 

次に、患者と医療機関の関係確認として「書面交付と説明」を新たに加えた。だが条件がある。「医師が継続的な医学管理が必要と判断した患者」とあり、慢性疾患の高齢者が想定される。急性期の患者や元気な住民は対象外となりそう。その上、患者が「希望する場合」に限られる。患者が希望しないとダメだ。
どんな住民とも一律に契約を交わす欧米の家庭医とは大違いだ。

 

もう一つは、かかりつけ医の機能として ①日常的な病気やケガへの対応 ②入退院時の支援法 ③休日・夜間の体制 ④在宅医療の仕組み ⑤介護サービスとの連携 ⑥かかりつけ医に関する研修の受講などの内容を都道府県に報告し、都道府県はこれらをウェブサイトで公開することにした。

 

以上の3項目は枝葉の話だ。根幹となる認定制と登録性が見送られ、家庭医への道は遠のいた。日本では軽い風邪やケガでも大病院で受診できる。フリーアクセスが当たり前だからだ。本来、高度治療に専念するはずの大病院が患者であふれてしまう。加えて、同じ疾病の治療で複数の医療機関をいくつでも通える。

 

 

この非合理的で効率の悪い制度をいつまで続けているのだろうか。欧米では、日常的なよくある疾病は身近な診療所でしか診ない。既得権を手放せない関連医療者の壁は高く、改革への政治的圧力を突破するには時間がかかりそうだ。

 

 

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

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