虐待事故防止活動の取り組みを

 

北区の特別養護老人ホームの職員による虐待致死事件をはじめとして、高齢者施設の虐待事件が多数報道されています。この要因としては、「家族面会が減り施設内に外部の目が届かなくなったこと」「職員のストレスによる不適切ケアの増加」などが挙げられています。しかし、根本的な原因は施設職員による虐待事故が起こることを前提に、日常的な「虐待事故防止活動」が行われていないことにあります。虐待事故の原因分析と防止活動を3回に分けてご紹介します。

 

 

■虐待事故の原因分析
平成27年度の厚生労働省の通知(※)では、施設職員による虐待事故の原因は、「認知症ケアの知識不足と職員のメンタルケアの問題」とされています。厚労省も施設経営者も虐待の原因は職員個人の性格や能力の問題であると考えているのですが、最近の虐待事故はそれほど単純ではありません。
虐待事故の原因を詳細に分析すると、次の5つの原因に分けられます。

(1)感情のコントロールができなくなって起こる虐待です。認知症利用者のBPSDの対応場面などで理性を失って虐待してしまうケースです。
(2)職場のモラル低下によって発生する虐待です。不適切なケアが蔓延して暴言暴力へ発展する虐待のケースです。
(3)著しく適性の欠如した職員による虐待です。介護職に極端に不向きな職員が衝動的に虐待するケースです。
(4)家族からのハラスメントへの反撃から起こる虐待です。精神的な被害を受けその反撃を利用者に置き換えて虐待するケースです。
(5)虐待の認識のないイタズラから起こる虐待です。倫理観が未発達の職員が利用者の人格を損なう行為をするケースです。

 

これら5つの虐待事故の原因を踏まえ、具体的に取り組んでいる防止対策をご紹介しましょう。
※2015年2月6日厚生労働省通知「高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律の対応強化について」

 

 

■原因分析を踏まえた防止対策
(1)感情のコントロールができなくなって起こる虐待の対策を考えてみましょう。従来このような虐待事故は、職員個人の要因で発生すると考えられてきましたが、それだけではありません。もちろん、認知症利用者の対応スキルやメンタルケアも重要ですが、虐待につながるトラブル発生の原因を分析することが必要です。
原因分析は事故と同様に、次のように「利用者の原因」「介護職の原因」「環境の要因」の3つの観点で分析できます。

 

利用者の原因:BPSDを悪化させる向精神薬や体調不良や生活環境
介護職の原因:体調などコンディションの悪さや認知症利用者への対応スキル
環境の原因:夜勤帯ユニットに1人の職員配置で他職員の応援が頼めない

 

このように、トラブル場面の発生原因を挙げて改善に取り組むことで、具体的な防止対策につながっていくのです。
例えば、リスペリドンなどの向精神病薬の処方を漢方に切り替えることでBPSDがなくなれば、虐待を引き起こす場面を減らすことができます。介護職員が最も理性を失いやすいBPSDは、「同じ言葉や行動を繰り返すこと(常道行動)」です。このような場面では他の職員と協力して対応することにします。
また、夜勤で体調不良であればあらかじめほかの職員に伝えておき、いざという時サポートしてもらうことも申し合わせます。職員が個々に頑張るのではなく、みんなで協力して虐待を防ぐ体制を作ることが重要です。

 

さて、私たちが問題意識を持ったのは、職員が「自分の理性をコントロールできる」と信じていることです。私たちの調査では、211人の職員のうち「虐待をしない自信がある」と答えた職員が199人もいました。
人の理性はそれほど確かではないので、「自分も虐待を犯すかもしれない」と考えてみんなで協力して防ぐ方法を考えなければなりません。
(次号へつづく)

 

安全な介護 山田滋代表
早稲田大学法学部卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月退社。「現場主義・実践本意」山田滋の安全な介護セミナー「事例から学ぶ管理者の事故対応」「事例から学ぶ原因分析と再発防止策」など

 

 

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