緩和政策に介護現場騒然
12月7日、中国政府は約3年実施してきた「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和する方針を打ち出した。政府の突然の方針転換に、今後、急速な感染拡大が起きるのではないかと、市民は戸惑いを隠せない。
新しく発表された政策「防疫十箇条」に、「介護施設・医療機関・保育所・小中学校などの特殊な施設を除き、PCR検査やウイルス感染リスクを表示するスマートフォンアプリ『健康コード』での確認を行わない」旨を明記した。
これまでゼロコロナ政策により、介護施設は厳格な「封鎖管理」下にあった。介護スタッフが施設に寝泊まりしたり、家族の面会を禁止したりして、極力に外部との接触を避けてきた。ゆえに、施設内はもっとも感染しにくい、「安全な場所」と思われてきた。
ところが今、ウィズコロナへと政策の舵が切られた。感染症の専門家は、「最終的には国民の80~90%が感染を経験する可能性があるだろう」と推測しており、介護業界は騒然としている。
介護業界の経営者が感染拡大を恐れている理由の1つが、高齢者のワクチン接種率が極めて低いことだ。2021年から始まった中国のワクチン接種は、当初18~59歳からスタートした。若い人は社会活動が活発で感染を抑える優先度が極めて高いとされていたからだ。60歳以上の高齢者の接種は最後だった。当時、これはこれで評価されていた。
また、筆者の知人が経営する施設では当時、介護スタッフ全員の接種が終わっていた時点で、入居者は1人も接種していなかったそうだ。現在、80歳以上の高齢者の接種率はわずか40%。高齢者の1割にあたる約2500万人は、まだ一度も接種していないという調査結果がある。
あまりに低い接種率の背景には、以下があげられる。
①ワクチンの必要性への認識が低い、②ほとんどの高齢者が生活習慣病や基礎疾患を抱えているにもかかわらず、政府によるワクチンの安全性に関する評価がなされなかった、③家族が副反応などを心配し、接種を反対していた、④介護施設において入居者の感染がほとんどなかった。
今後市中感染が広がっていく中、基礎疾患を抱え、ワクチン接種していない入居者の感染リスクがきわめて高く、施設としてどのように対応していくべきか、緊張が高まるばかりだ。
施設封鎖によるスタッフの離職率の悪化、入居者数の減少、物価上昇によるコスト増――。施設運営経営者の多くは、「今ほど経営に不安を感じたことがない」と口を揃える。今回の緩和政策で、介護施設がどのようにウィズコロナを乗り越えていくのか、注目が集まる。
王 青氏
日中福祉プランニング代表
中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。