任意調査で長時間拘束 法的根拠なく虐待認定

 

社会福祉法人カメリア会が運営する特別養護老人ホームが10月、渋谷区による立入調査の結果虐待認定を受けた件については、本紙でも随時報じてきた。この件は氷山の一角であり、全国では類似のケースが散見されるのが現状のようだ。こうした問題について、弁護士法人おかげさま(東京都新宿区)の外岡潤代表弁護士に話を聞いた。

 

弁護士法人おかげさま 外岡潤代表弁護士

 

 

2022年3月の厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」は、各自治体の保険者や都道府県に向けた指導の留意点をまとめたものですが、中でも「運営指導者の態度」について次のような記述があります。

 

「運営指導において、相手方に対して高圧的ととられる態度を示したり、そのような言葉遣いをすることは許されません。(中略)行政指導についても、相手方の任意の協力に基づき行うものであり、そのような態度は行政機関としての信頼性を著しく欠く要因ともなります」

まるで子どもに諭すような留意事項ですが、なぜ厚労省がこう記したかというと、全国各地で担当者が「高圧的な態度」で指導や監査にあたっているからに他なりません。

 

以前、九州のある島を訪ねたとき、地元の社会福祉法人の施設長が象徴的なエピソードを話してくれました。
ある日、実地指導で市役所の担当者が施設に来訪。「全体を確認したい」というので風呂場の入口も案内しましたが、ちょうど複数名の利用者が入浴中だったため「中を覗くことはできません」と説明し理解を求めました。

 

ところがその担当者は職員の制止を無視し、風呂場の扉を開けスーツ姿で入浴中の風呂場を覗き込んだのです。見かねた施設長は、その場で「利用者の人権や尊厳を守るべき立場にある人が、利用者に羞恥心を抱かせるようなことをして許されると思っているのか」と厳重注意しました。そこまで言われても、担当者は反省の色を見せなかったそうです。

 

また、ある関西の市は、一居宅介護支援事業所の運営基準違反を指摘し、総額5000万円の返還を要求。その代表に対し担当者は「会社が破産しても、経営者のあなたが家を処分してでも返還しなさい」と言い放ったそうです。勿論、仮に返還義務が生じようと法的には法人が負うものであり、代表がその負債を連帯して弁済する義務はありません。それを知った上でプレッシャーをかけたのならば悪質極まりないといえます。現在は、その市に返還義務の不存在を認めさせる訴訟をしています。
このようなあまりに不適切な態度の役人が相当数いるというのが現実でしょう。しかし、みな監査や指定取り消しを恐れ泣き寝入りするほか無いのです。

 

 

「どこそこの訪問介護事業所が、運営基準違反により指定取り消し処分となりました」表向きの報道や告示による情報はいつも結論だけで、そこに至る行政官の接し方は不問に付されるのが常です。行政は絶対に間違いを犯さない、と盲信する人も多いでしょう。しかし、必ずしもそうではないのです。

 

 

最近、特に深刻な問題として増えているのが「虐待」にまつわる行政調査や認定です。「虐待は許されない」という大義名分の下、通報があれば介護現場に乗り込み調査をする。それ自体はよいのですが、やり方が逸脱しているとの相談です。

 

本来は任意調査であるにもかかわらず、強引に職員を長時間拘束して話を聞き出そうとしたり、コロナ禍でも複数名で現場にやって来たりします。「何が虐待に当たるのか、改めるためにも教えて欲しい」と希望しても、利用者保護の名目を持ち出し一切教えてくれません。徹底した秘密主義のもと手続が一方的に進められ、「虐待認定」という結論だけが唐突に告げられます。しかしその理由を聞くと、高齢者虐待防止法に定義される虐待とまでは言えないのでは、というケースも多いのです。

 

 

例えば、利用者の服薬拒否があった事案でも、「服薬介助を怠った」としてネグレクトと認定。多少爪が伸びていたり巻爪の状態を発見すれば、「爪のケアを怠った」とネグレクト認定されてしまう。そこには法的な根拠に基づく判断基準が存在せず、担当者、保険者のさじ加減1つで決められているのが実態です。

 

深刻なのは、施設事業所が異議を申し立てようとすると「反省していない」と監査に切替える口実とされてしまう点です。「変に目をつけられ指定取消しの危険にさらされるよりは」と不名誉な虐待認定を甘受し、頓珍漢な改善計画に取り組まされる事業所も多いのではないでしょうか。

 

このように、行政の運営指導監査には、恣意的な指導がなされ極端な結論に邁進するという危険性が潜んでいます。当事者である各自治体の担当者がその事実を自覚し、全ての人が従うべき虐待認定のプロセスと認定基準の策定に取り組むべきです。一方で深刻な虐待事件も増えつつある中、利用者の人権と現場職員の名誉を守るために、何が真に抑止されなければならない事案かを迅速かつ正確に見極める手法を確立しなければなりません。

 

 

 

 

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