団塊世代の「倍率」見直しで
介護保険制度の給付と負担の見直し論議は、ケアプランの有料化など法改正が必要な重要案件は先送りとなった。残ったのは3項目である。それは、
①65歳以上の高所得者が払う介護保険料の引き上げ
②サービス利用料の2、3割負担者の対象拡大
③介護老人保健施設などの多床室の室料の全額自己負担。
このうち①と②は、所得に余裕のある人にはそれなりの負担をという「応能負担」の考え方を取り入れた。応能負担を徹底させる手立てはまだあるはずだ。
そもそも保険料は保険者である市町村自治体が条例で独自に決めるものである。各期ごとに3年間の事業計画から総費用を予測し、高齢者人口から算出するのが保険料の基準額。その前後に高齢者の所得に応じて倍率を設け、全住民の保険料を導き出す。
国は目安として、倍率を1.7から0.3まで9段階プランを明示している。最高の9段階目は年間所得320万円以上(年収468万円以上)である。
保険料は全国平均で年約12万円になる。48%の保険者(自治体)は国基準の倍率をそのまま使っており、この9段階の見直しを厚労省は提案した。
52%の自治体は9段階以上の倍率を既に設けている。その理由は「住民の所得状況からみて、320万円以上を最高段階としてひとくくりするのは疑問」「総利用費が増えると基準額が上り、低所得者の保険料もアップしてしまうので、これを抑えるため」などを上げる。
もっともな言い分だ。都市部の自治体が多い。
確かに、所得320万以上であれば、800万円でも1000万円でも同じ倍率の1.7倍というのは納得がいきかねる。
東京都練馬区は第4期から12段階に組み直し、現在の8期は所得320万以上を17段階まで広げている。所得が320万円から400万円未満までは第9段階で、倍率は1.67、保険料は年13万2360円。所得400万円から600万円未満の第10段階は倍率2.0で保険料は15万8400円となる。
保険料最高額は第17段階で、5000万円以上の所得者が月3万1020円、年間で37万2240円払う。
同世田谷区もこの8期から16段階を17段階に変えた。最高額は3500万円以上の所得者で、月2万5956円、年間31万1472円となる。「応能負担の考え方でこれまで段階を増やしてきた」という。東京都23区はすべて14~17段階にしている。
今回の厚労省提案は半数の自治体で実現済みである。財源難対策としては倍率の引き上げが次の一手として考えられる。
今後、介護サービス利用者の主流となるのは都会部に住む団塊世代以降である。学生時代に地方から首都圏や近畿圏などに転居し、そのまま大都市部に住み着いた。上場企業をはじめ企業勤務者が大半なので厚生年金の受給者が多い。企業年金の受給者も加わる。
介護保険発足時のサービス利用者は地方在住の国民年金受給者が多かったが、厚生年金の受給額は国民年金を大幅に上回る。平均受給額は14万6000円で、国民年金は同5万円台。
年金額に合わせての保険料の倍率引き上げは順当な選択肢だろう。例えば練馬区では、厚生年金受給者と見られる所得125万~210万円未満と210万~320万円未満の7段階と第8段階の高齢者は約3万5000人で21%を占める。その倍率は1.23と1.48に止まっている。これを大幅に引き上げ、10段階以上も同様にアップすれば相当の増収になるはずだ。
高所得者の増額分は低所得者の保険料引き下げに回すことができる。応能負担をより徹底させることになるはずだ。
浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員
1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。