書評 介護・医療業界注目の一冊

山崎章郎著
新潮社
1,485円(税込)
患者が創案した「がん共存療法」
著者の山崎章郎医師は32年前のベストセラー「病院で死ぬということ」で知られる。緩和ケア医として、さらに24時間対応の在宅医として活動してきた著名人である。
活動拠点のケアタウン小平クリニック(東京都小平市)を昨年6月、在宅医療のトップ法人、悠翔会(佐々木淳理事長)に譲渡し関係者を驚かせた。自身がステージ4の重い大腸がんを患ったためだ。
本書は切除術後の抗がん剤、ゼローダの副作用に悩まされた著者が、標準治療を拒絶し、自身が工夫した治療法を生み出す経緯を綴ったものである。「自ら実験台となりガンとの共存を目指す」との強い信念による。その息遣いが行間からあふれ出るようだ。
書名通りにがんの増殖を防ぐにはブドウ糖の供給量を減らす、即ち糖質制限にまず着手した。同時に糖質に代わるエネルルギー源としてケトン体を上げ、ケトン食を摂る。がん細胞の悪化を軽減できるEPAも加える。こうして「EPAたっぷり糖質制限ケトン食」をまず創案。
その食事療法は、朝食にイワシの水煮缶と3個の温泉卵、昼食は卵サラダ、カマンベール入りチーズ、2個の揚げ鶏など具体的に示す。いずれもコンビニで入手できると強調する。深刻な話なのに、頬が緩む。ここでも患者目線が発揮される。
次いで、ビタミンDやクエン酸、それに少量の抗がん剤処方を組み合わせて独自の「がん共存療法」を完成させた。いずれも、標準治療でない代替療法を提案する5人の医師の著作を読破し、その内容を吟味しつつ取り込んだものだ。
この作成過程を包み隠さず丁寧に逐一記す。途中で免疫療法を試みるも、あまりの高額なことに気付き、「間違った選択」と後悔し止めた。その体験を「恥ずかしながら告白」。著者の人柄が表れたエピソードだ。
ステージ4の診断から3年後、22年4月に「がん共存療法」の結果が出た。CT検査でがんは減少し、縮小状態と主治医から告げられる。効果があったのだ。次の課題は、数百人の患者に臨床試験を行い、エビデンスを確保することだという。普遍化への挑戦だ。
標準治療一辺倒の医療界や保険制度への痛烈な「一刺し」なのは間違いない。がん専門医療者からの声、とりわけ「異論反論」を是非聞きたい。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏