現場で対策再強化、医療設備を用意
昨年12月、中国政府は「ゼロコロナ」政策に終止符を打った。人々が喜んでいるのも束の間、すぐに感染拡大の懸念が強まった。日本で報じられているように、全国各地で感染が拡大し、上海や北京などの大都会では、約6割の人が感染。基礎疾患のある高齢者が次から次へと亡くなった。
このような状況下で、これまで最も「安全な場所」と思われていた介護施設は、今まで以上に感染者数・重症化・死亡者数を最小限に抑えることが急務となった。
筆者と交流のある上海および北京の介護事業経営者らは、施設で感染者が多数発生し、救急搬送されたり、亡くなったりする人が少なくなかったと言及した。
国営メディア「人民日報」の記者たちが上海市青浦区にある介護施設(260床)と高齢者病院(400床)を取材した。入居者の平均年齢はどちらも85歳以上で、基礎疾患や癌を患っている人も多く、重症化リスクが高い人たちである。
介護施設の責任者は取材に対して、「昨年12月中旬以降、感染が拡大し、入居者は7割、職員は6割がすでに感染した。もともと冬至の前後は、高齢者の死亡数が特に多くなる時期であるため、12月に入り亡くなった入居者は少し増えたが、重症患者がそれほど多くなく、コントロールできている」と現状を述べた。
また、感染拡大や重症化防止のための取り組みを説明してくれた。介護施設では、隔離病棟のガイドラインに基づき、陽性入居者と陰性入居者を可能な限り分離し、陽性職員が陽性入居者のケアを、陰性職員が陰性入居者のケアを行っている。これが奏功し、感染者数は一桁までに減少。感染者の様態も徐々に回復に向かっていると話した。
この2施設が共通しているのが、感染拡大を見据え、事前に人工呼吸器や薬などを購入し、医療的な設備を用意していたほか、食事に牛乳や卵を加えるなどして、職員と入居者の栄養を重視していたことだ。
さらに免疫力を高めるための漢方薬を処方してもらい、西洋医学と中医学を結合させる治療法を試みた。
中国の多くの施設には24時間医師と看護師が常駐する「医務室」があるため、ある程度の医療行為が可能である。迅速な対応が早期治療や重症化防止につながった。専門家は「このような経験は広めることに値する」と強調している。
今月に入り、中国国務院が全ての地方政府に、高齢者施設に適切な数の酸素ボンベバッグ、酸素ボンベ、パルスオキシメーターなどを備えることを指示した。また、65歳以上の在宅高齢者にパルスオキシメーターの配布を積極的に行い、自宅での血中酸素飽和度モニタリングに関するガイダンスの必要性も提示した。
王 青氏
日中福祉プランニング代表
中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。