2010年代に中国の介護マーケットに参入した日系介護事業者の撤退が相次ぐなか、今もなお新規出店を計画し、挑戦を続けているのがメディカル・ケア・サービス(さいたま市)だ。14年の中国進出以来、7都市で計7施設(現時点)を運営する。同社が築いてきた認知症ケアと同水準のケアを中国で実現すべく、現地で奮闘する王思薇取締役に話を聞いた。

 

メディカル・ケア・サービス
王思薇取締役

 

 

 

異業種企業と合弁設立 500床新設DX推進も

 

 

――中国事業の概要は

 14年12月、国内でも少数の介護と医療融合型の施設「護理院」(106床)を南通市に開設しました。その後18年から22年までの間に、広州市で介護付有料老人ホーム(144床)、天津市でグループホーム(20床)、北京市で公建民営ホーム(150床)、青島市でCCRC内の介護施設( 88床)、成都市で有料老人ホーム(328床)、蘇州市で認知症介護センター( 75床)の運営を開始しました。

 

そのほか、上海に統括本部を置き、ここではコンサルティングや教育事業も行っています。特に最近は、コンサルの依頼が増えています。その理由は、中国の介護市場には多くの外資系企業が参入していますが、近年は国内の介護事業者が著しく成長しサービスの質も向上しており、「外資」という肩書だけでは通用しなくなってきていることが考えられます。そのため、実際に施設運営ノウハウを持っている当社に、コンサルティングと運営の両方を依頼するケースが増えていると感じます。

 

 

 

――パートナー企業との事業の進め方は

 パートナー企業と合弁会社を設立します。アライアンス前に何度も対話を重ね、お互いに理念や方向性を理解し、信頼関係を築きます。出資比率は合弁会社によって異なりますが、マイノリティ出資・マジョリティ出資どちらのケースもあります。大事なのは、出資比率によって決定権がどちらかに偏るのではなく、「相互に得意なところを担当し、足りないところを補い合う関係」を築くことです。事業計画策定対等に行いますし、出資比率は大きな要素ではありません。

 

開設当初は、日本人スタッフが中心となり運営体制の構築や現地スタッフのOJTを進めてきましたが、現在一部の施設では管理職も現地スタッフが担うようになってきました。日本人スタッフは、施設運営や品質管理のマネジャーとして統括しています。

 

高水準のケアを中国で

 

 

 

多種多様な施設運営 コンサル依頼も増加

 

 

――中国での事業展開で重視したことは

 中国の介護市場に参入するにあたり、より中国市場のこと、消費者のことを理解するため、初期段階において次の3点を戦略としてきました。

1つ目は、多様な企業とパートナーシップを結ぶこと。総合医療グループや大手国営投資会社、不動産会社など、民営・国営問わず多種多様な規模、業種の企業と提携してきました。

 

2つ目は、多種多様な施設運営を経験すること。現在運営している施設は、医療保険適用の護理院や認知症専門施設、有料老人ホームと多岐にわたります。

 

そして3つ目は、様々な地域で出店することです。中国では、地域によって政策や経済状況、人々の価値観も異なります。ある地域で成功した運営スキームを、そのままほかの地域に横展開しても、同じようにニーズに応えることはできません。今後の事業拡大に向けて、地域に合った独自の運営スキームを模索し、構築していくノウハウを培うためにも、様々な地域で出店してきました。

 

実際に施設運営を行うことで、マーケティングリサーチでは把握できなかったニーズや課題を発見することができました。これらを1つずつクリアし、最初の5年間に開設した施設は採算ベースに乗っています。初期段階の検証結果を受け、また中国市場の変化に伴ない、今後は要介護者にターゲットを絞り、認知症介護施設、有料老人ホームを重点的に運営していく予定です。

 

 

 

――認知症ケアをどのように中国で実現していますか

 利用者の「QOL向上」を目指すことを理念とし、中国での認知症ケアのレベルを日本のレベルにまで高めることをミッションとしています。ただ、QOL向上の実現までのプロセスは日本と中国では当然異なります。例えば、日本人にとっては「おもてなし」でも、中国人にとっては「余計なサービス」であるというようなケースは少なくありません。日本人と中国人では、求めていることが異なりますので、そこは「ローカライズ」が必要です。

 

今後、利用者には「正しい介護」を伝えることを強化していく必要があります。これを伝えることで、利用者はこれまでとは違う介護手法を受け入れてくれますし、それで結果が出ると非常に喜んでくれるからです。

介護はほかのサービスと異なり、要介護にならなければ体験することがないサービスであるからこそ、なかなか理解されません。しかし正しく介護を伝えれば必ず理解を得られますし、この手順を行わなければ中国の介護サービスの向上はないと考えています。既に、中国の認知症専門医からは「MCSの認知症介護は従来の中国の認知症介護とは別物で、高い専門性により利用者に活気ある生活をもたらしている」と高評価を受けています。

 

また、仕事に対する考え方も両国で異なります。「お金を稼ぐため」に働いている中国スタッフには、自分たちが行っている仕事の意義をしっかり伝えるほか、研修カリキュラムも1から作りました。日本の研修ではまずビジョンを伝え、その後サービス内容を伝えるという流れですが、中国では作業内容をまず指導し、それからビジョンに気づいてもらう必要があります。日本と中国では、教育の流れは真逆です。これは中国の人が高水準のサービスを知らないことが理由ですが、今後ほかの介護後進国でも同じ教育方針が使えると考えています。

 

試行錯誤を繰り返し、現地スタッフの意識を高めていくことで、ケアの水準も高まってきました。入居者の平均要介護度改善が成果として表れています。

 

 

スタッフ研修の様子

 

 

 

――コロナ禍での状況は

 中国では感染者が増えると、施設が一定期間封鎖されるため、その時に勤務していたスタッフで運営を続けなければなりません。当社でも、開設直後に封鎖を余儀なくされた施設もありました。新規入居の営業活動もできないまま、家族と会えない寂しさから退去する人もいました。スタッフにとっても非常に苦しい状況でしたが、本部とコミュニケーションをとりながら乗り越えてくれました。

 

 

 

――今後の展開は

 新規出店については、今年は有料老人ホームや認知症専門施設を3〜4棟、計約500床の開設を計画しています。また、介護DXも進めます。国内最大手のロボット会社と合弁会社を設立し、介護ロボットの開発などを行う予定です。新しいものを積極的に取り入れる中国の姿勢と日本のICT導入経験を相互に活かせたらと考えています。

 

さらに、日本で経験を積んだスタッフを中国へ、中国で経験を積んだスタッフを日本へ、という人材循環も視野に入れて、活躍の場を広げます。施設運営や人材教育、どれをとっても一筋縄でいかないのが中国の介護事業ですが、多様な場所で柔軟に対応する当社の強みを発揮し、挑戦を続けていきます。

 

笑顔を見せる利用者

 

 

 

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