日本の認知症ケアは急速に向上し、本人本位のケアへ深化しつつある。介護保険制度でスウエーデン発祥のグループホームを独立した介護サービスとして導入し、位置付けたことが大きな要因だ。欧州諸国でもグループホームは広がっているが、日本のような入居者数やスタッフ数、居室面積の下限、それに個別の報酬体系など細かい基準はない。独立した建物の他に介護施設の中の一角に設けられることが多い。

 

 

ドイツは日本より5年前に介護保険をスタートさせたが、グループホームへの扱いは一般施設の中に組み込まれており、独立したサービスとはなっていない。加えて、制度発足直後はサービス利用の対象者を日本の要介護3以上の中重度者に限定していた。そのため、ADLがあまり落ちていない軽度の認知症の人たちは、制度から外れていた。

 

この数年の間に、保険料を上げて制度の規模を拡大し、軽度者への裾野を広げてきた。同時に認知症の人への枠も大幅に広がった。
ブレーメンの中心部で訪れたのは、こうした背景から登場した認知症高齢者の共同住宅(WG)、「WOGE BREMEN(ボーゲ ブレーメン)」である。

 

入居者は8室に8人。運営するのは入居者の家族たちである。運営団体「WOGE」の代表、アナ・ロシキさんは「以前は、認知症の人たちが入居できる施設があまりなかった。そのため、家族が集まり、事業として認知症の人たちを受け入れようということになり、始めました」と振り返る。

制度が追い付いてこないために、やむなく家族が立ち上がったわけだ。9年前の2003年に開設した。

 

訪問した時は、ちょうど午後のお茶の時間だった。テーブルを囲んで座る入居者たち。車いすの方が2人いる。全員女性で白髪が目を引く。男女2人の若いスタッフからケーキと飲み物を渡されていた。

 

ひとつの食卓に全入居者が集まり、家庭的な雰囲気を醸す

 

 

家族会では、入居者の日々の暮らしにかなり気を配っている。家族会の結束は強い。食事のメニューや観葉植物の選択などを皆で話し合う。

代表のアナ・ロシキさんの姉は、開設以来今も入居し、生活を続けている。妻が入居している夫も団体の会員だ。

 

このリビングルームの先には各人の居室が並ぶ。ソファや椅子、壁の絵などいずれも自宅から持参してきた。一見、日本のグループホームと同じような様子だが仕組みは全く違う。

WGとは「WOHN(住宅)GEMEINSCHAFT(共同の)」のこと。施設名の「WOGE」はこの用語そのものだ。日本では、よくシェアハウスと翻訳され、若者向けと誤解されかねない。ドイツでは、若者だけでなくあらゆる世代向けの共同住宅のことである。

 

入居者への介護サービスは、家族会が専門の訪問介護事業所に頼んでおり、2人のヘルパーはそこから派遣されてきた。つまり、WGはただの集合住宅である。介護サービスは外付けとなる。日本の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅と同様と見ていいだろう。

 

入居者の居室には自宅から持参した調度や絵が並ぶ

 

 

介護保険はあるが、家族介護の考え方は意外に根強い。介護保険からも家族介護に報酬が支給される。日本では家族介護の賛否が大論争となり、最終的には見送った。「介護の社会化の理念に反する」とする世論が勝ったためだ。

 

WOGEでは、経営面で厳しくなったため大手事業者の支援を受けることになったという。だが、家族会は「家族としてのこだわりは変わらない」と強調している。

(元日本経済新聞編集委員 ジャーナリスト 浅川 澄一)

 

 

 

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