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暮らしを支える「生活援助」 制度改定で消えるのか…/浅川澄一氏

2022年12月01日 提供:高齢者住宅新聞

再来年4月からの第9期の介護保険制度の見直し審議が始まった。制度の縮小案をどの程度で妥協するかが注目される。

争点は要介護1、2の利用者が使う訪問介護と通所介護の「引っ越し」だろう。移転先は市区町村の地域支援事業。要支援者と同様に、「総合事業」の器に移す案である。同時に、訪問介護の「生活援助」の在り様が大きく変わりそうだ。

その兆しが明示された。「介護現場のタスクシェア・タスクシフティング」という厚労省の資料である。「専門性の高い直接的な介護業務とそれ以外の間接的な業務等に仕分けを行った上で」「間接的な業務については、いわゆる介護助手に実施していただくことなどにより、適切な役割分担の下でのケアの質の向上を図っていくことが考えられる」と記す。

10月16日の第99回介護保険分科会に出された。直接的な介護業務は「利用者に直接触れる移動・排泄・食事などの介助や清拭など」。一方の間接的な業務は「掃除・洗濯、配膳、必要品の買い出しなど」とされ、介護の有資格者でなく介護助手に委ねる。そして、老人保健施設ですでに導入されている介護助手の「成果」が綴られる。

ここで切り分けられた間接的業務が訪問介護では生活援助に当たるだろう。「利用者の身体に接することのない周辺業務」なので、専門性が低いと断言しているようなものだ。利用者に直接触れる業務だけが専門性が高い、と言わんばかりである。

果たしてそうだろうか。生活援助は普段通りの暮らしを営む上で重要な支援である。1人暮らしや老々介護の世帯が広がるなか、ヘルパーの訪問で孤独感から解放され、社会とのつながりを得られる高齢者は多い。人間関係が結ばれる社会への窓でもある。生活援助への締め付けは、かつて2012年改訂で強化された。

「改定前までは、2時間近い訪問時間の中で掃除や買い物の後、利用者からゆっくりお話を聞くこともよくあった。今では長くても1時間のケアプランしかなくなり、話し相手になれなくなった」
東京都内で訪問介護事業所に登録し、20年近くヘルパーを続けている向山久美さんは表情を曇らせながら話す。報酬計算の単価が1時間以上から45分以上へと短くなるとともに、各サービス内容がより限定された。

「今の生活援助は、作業が細分化され過ぎている。掃除や洗濯などの時間が短く限定され、ヘルパーは時間に追われて話を聞く余裕はない」と肩を落とす。近著「ヘルパーと高齢者のちょっと素敵な時間」は、かつての体験を表しており、読者は最近の実態との落差に驚かされるだろう。

東京都西東京市で地域活動から生まれたNPO法人「サポートハウス年輪」がこの3月、訪問介護を休止した。人手不足もあるが、大きな要因は2012年の制度改定だと言う。

生活援助の時間が短縮され、洗濯や買い物など特定の家事作業しかできなくなった。「利用者からお手伝いさん扱いされ、仕事へのやりがいや誇りが失なわれた」と安岡厚子理事長は嘆く。利用者と話をしながら体調や生活の変化に気配りできるゆとりが消えてしまった。

厚労省が掲げる「在宅重視」は彼方に。「そもそも生活援助と身体介護を切り分けることが間違い」という声は現場からよく聞かれる。掃除の最中にトイレ介助を迫られることもある。人間の生活を二つに切り分けることに無理がありそうだ。

そこへ追い打ちをかけるのが、総合事業への「引っ越し」だ。「施設入所者が増えていくだろう」と予測するのは「認知症の人と家族の会」の副代表理事でヘルパー経験のある花俣ふみ代さん。

なぜか。「総合事業ではヘルパーが少なく、レベルも低い。不安を抱く高齢者は施設に入居せざるを得なくなるからです」。

確かに、総合事業の実情は寂しい限りだ。近隣住民のボランティア活動に依拠する「B型」はいまだに手掛けていない自治体が多い。プロのヘルパーによる「社会の目」どころか、成り手の存在すら危うい。

住み慣れた地域での生活をできるだけ長く続ける「地域包括ケア」への途を制度が阻んではならない。

浅川 澄一 氏
ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。