高齢者住宅新聞ニュース

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◇SPOT◇福祉の職業人【ソーシャルワーカー】住民を社会資源に繋ぐ 各所が連携俯瞰で支援 

2023年6月09日 提供:高齢者住宅新聞

 

独居高齢者やヤングケアラー、老々介護など、核家族化が進む社会で地域が抱える社会課題は複雑化している。個人が抱える課題を拾い上げ、適切な支援に繋げる役割の重要性が増している。今回はそうした意識のもと地域で活動する3名のソーシャルワーカー(以下・SW)を迎え、それぞれの仕事観、今後目指すことを語ってもらった。

 

 

――みなさんの仕事内容を教えてください

宇田川 「城西在宅クリニック・練馬」(東京都練馬区)に勤務し、在宅医療が必要な人を当院所属の医師や看護師に繋ぐ役割を担っています。アセスメントで当院での診療が適切かを判断した上で、介護保険の使用状況や家族関係などの情報を整理しカルテに落とし込み、診療に繋げます。

 
ターミナル期で容態の変わりやすい患者も多いため、診療開始後に突発的なケアプラン変更などが生じることも多いです。そうした場合には私が窓口となり関係事業所との連携を図り、場合によっては家族の精神的なサポートなども行います。

 

城西在宅クリニック
練馬宇田川友美氏
(社会福祉士)

 

南部 練馬区医師会が運営する「医療連携・在宅医療サポートセンター」(同)で、主に住民から医療機関の受診に関わる電話相談を受けています。このセンターは「かかりつけ医」を住民が持つためのアシストを目的としていますが、住民からは「具合が悪いがどうしてよいかわからない」「受診するお金がない」などさまざまな相談が寄せられます。その際には医療機関だけでなく行政機関、各種団体などに繋ぎます。

 

一般社団法人練馬区医師会
南部由香氏
(社会福祉士・精神保健福祉士)

 

中込 私はLIFULLsenior(同千代田区)で、全国から寄せられる老人ホームの入居相談を電話で受けています。施設入居を希望する人からの相談がほとんどですが、相談内容はその人の生活環境、家族、財産に関わることなど多岐にわたります。

 
話を聞く中で、例えば介護保険申請が必要だと考えた場合、地域包括支援センターに相談するよう助言します。その人が求める生活を深堀りするうちに、在宅生活の方が適切だと判断すればそちらを勧めることもあります。一人ひとりの状況に応じて順序立てて整理し、適切な機関に繋ぐというソーシャルワークのフレームワークが、今の業務に活きていると感じます。

 

LIFULLsenior
中込彩知氏
(社会福祉士・精神保健福祉士)

 

 

学校、司法、多様に活躍

 


――SW自体の活躍の場は広いですね 
中込 最近は働く先も多様化してきているようです。

 

宇田川 「スクールSW」、罪を犯した人を支援する「刑事司法SW」、日本在住の外国人の生活を支援する「多文化SW」などさまざまな場で活躍している職業です。

 
2023年現在、ソーシャルワーカーの代表的な資格である社会福祉士の人数は約28万人。毎年増加しているものの、25年、40年が迫り、高齢福祉分野でもSWによる支援の需要が増す中、まだまだその需要を満たせていない状況。今後もこの仕事を希望する人が増えてほしいです。

 


「先入観なく中立で」地域課題を吸い上げ

 

――「生活」に関わる領域で支援をする上で、配慮していることは

中込 人に対する関心はもちろんのこと、社会はどんな仕組みで動いているのかを知ろうとする「好奇心」も必要です。また、相談に来る人は、聞き手がどんな人かを繊細に感じ取るので、「中立的立場で相談者が考えることを促す」「先入観で否定しない」など、信頼関係を築けるような対話方法を含め、日々研鑽を積むことを意識しています。

 


南部 特に私の場合、相談を受けた人と継続的な関係を築くというよりは1回のみ電話で話すことも多いので、対話方法は意識します。

 


――どんなところにやりがいを感じていますか

宇田川 私は以前病院でSWとして勤務していましたが、CLで退院後の「生活」を支援することに、退院支援とはまた別のやりがいを感じます。


病院に勤めていた当時、ダイヤモンドプリンセス号に乗船していた外国人コロナ患者を受け入れていた病院のSWに話を聞く機会がありました。未知のウイルスへの恐怖を感じていた人も多い最中、入院から退院を経て帰国までの支援をした内容に驚き、SWの仕事の可能性に感銘を受けました。この体験が、今仕事をする上でのモチベーションでもあります。

 


中込 私は多様な選択肢の中から、目の前にいる人にとっての〝最適解〞を考えるところでしょうか。

 

南部 私は日々の相談業務の中で浮き彫りになった課題を医師会のドクターに共有し、自らが直接解決に寄与する実感を得られるところに、この仕事のダイナミックさを感じています。

 

例えば、地域住民から「耳鼻科の訪問診療を行っている医療機関が少なく困っている」との声を医師会に共有したところ、訪問診療に対応してくれるCLが増えた事例があります。
宇田川 実際、南部さんが練馬区医師会の、私が城西在宅CLの窓口となり相互に調整を行うことで、CLの診療科目を増やすことに繋げた事例もありましたね。

 

 

ケアマネジャーと協力も

 

――今後、地域で求められるSWの役割とは

南部 医療や介護分野にはさまざまな専門職がいますが、私たちは特に、社会資源を俯瞰で見て制度横断的に支援に繋げる意識で仕事をしなければならないと考えています。

 


中込 8050問題に直面する高齢者からは、「50代の息子と一緒に老人ホームに入居したい」といった相談を受けることが多々あります。制度上対応できない事例もありますが、そうした生の声をヒアリングする私たちが、今後社会にその声を届けていける存在でもあると思います。

 

宇田川 そういった意味でも、いかにSWが「地域包括ケアシステム」に入り込んでいけるか、という視点を常に持つようにしています。利用者を医療、介護を含むあらゆる社会資源に繋ぐ役割がケアマネジャーに期待されていますが、それではケアマネジャーの負担が過多になってしまうのではと懸念しています。ケアマネジャーとSWがうまく協力体制を築くことで、より重層的な支援が可能になるのではないでしょうか。

 

 

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 編集後記 

 

2018年に入退院支援加算の施設基準に社会福祉士の配置が求められ、社会福祉士を配置する病院が増えている。病院に勤務するSWは、「メディカルソーシャルワーカー(MSW)」として、入退院支援や在宅復帰のサポートなどを行い、医療介護連携、地域連携の重要な役割を担ってきた。しかし、病床の機能分化、報酬体系などの理由から、退院支援が中心となってしまう傾向にあるMSWだけでは、地域連携を担いきれないといった課題もある。

  
今回取り上げた3名のSWは、在宅領域に踏み込んだ場で活動をする。暮らしの中での問題をサポートができる仕事に、それぞれが意義を感じていることが伝わってきた。

  
同時に、医療機関や介護施設、教育機関、行政などそれぞれの機関に勤めるSWが相互に関係を構築することで、より強固な地域連携の体制が構築できるだろう。国が「地域共生社会」を掲げる中、SWは必ずその実現の重要な役割を担う存在といえる。「SW同士の横の繋がりは強い」という宇田川氏の言葉に、大きな可能性を感じた。