「病は口から」高齢者の口腔ケア 理事長が歯科医、専用診療台導入

2021年3月8日

和歌山県で特別養護老人ホームやデイサービスを運営する社会福祉法人紀の国福樹会(和歌山県岩出市)は口腔ケアに注力。特養「岩出憩い園」(同)には歯科医院と同等の歯科診療台を導入し、訪問歯科診療時に専門的な治療が行えるほか、舌圧計を活用し口腔状態を数値で把握する、理事長がオリジナルの口腔機能訓練器具を開発するなど、様々な取り組みを行っている。

 

 

社会福祉法人紀の国福樹会 笠原直樹理事長

 

 

 

特養に設置された歯科診療室にある歯科診療台は、回転切削機器やバキューム、口をすすぐボウル(スピットン)など専門器具を完備。

 

本格的な設備を導入。口腔ケアに注力することで入院が少なく、経営上もプラスになるという

 

 

 

訪問歯科診察が実施される際には、通常の歯科医院と同等のレベルで、虫歯の治療や入れ歯の調整・修理などが実施できる環境を整えている。入居者に対する口腔ケアは、専門的な技能を持つ歯科衛生士が中心となり実施している。

 

「本格的な歯科診療台が設置された特養は、全国でも多くありません。口腔機能は生きる喜びに直結しています。ハード面もソフト面も万全のものを提供したいという想いがあります」と歯科医師でもある笠原直樹理事長は語る。

 

 

施設では入居者に、「舌圧計」を用いた検査を実施することで、口腔機能を数値データで把握し誤嚥性肺炎のリスクの高い入居者のスクリーニングを実施している。

 

舌圧とは、舌を口蓋前部に押し付ける圧力を指し、食物を食道に送り込む力に関係する。舌圧が30キロパスカル以下になると誤嚥のリスクが高まるという。

 

 

現在ではボランティアで、地域住民に対し舌圧測定と口腔機能を維持する方法の指導も行っており、地域の健康づくり増進にも取り組んでいる。

 

普段は、食前など口腔体操の実施と合わせて、笠原理事長が立ち上げた法人リハートテック(同和歌山市)で、施設が開発に協力したオリジナル口腔訓練器具「タン練くん」を使用し、口腔機能の維持に務める。

 

 

タン練くんは、高齢者向けの哺乳瓶のような器具で、お茶などの好みの飲料を入れて日常的に使用する。飲料を吸い出す動作が舌圧や口腔周辺筋のトレーニングになる。 「これらの口腔ケアの成果もあり、誤嚥性肺炎の発生はほぼありません。そのため、特養の入院者は現在0人となっており、この2~3年でも数名程度にとどまっています」

 

理事長が立ち上げた法人であるリハートテックの「タン錬くん」

 

 

 

歯科受診率低下、高齢で通院困難

 

 

笠原理事長は、「この法人を立ち上げた理由に、『地域の高齢者に口腔ケアを適切に提供したい』という思いがありました」と語る。

 

厚生労働省の「平成29年度患者調査」によると、65歳以上の受療率について、病院、診療所の

場合は年齢とともに増加するが、歯科診療所の場合はほぼ横ばいとなっている(グラフ参照)。

 

 

出典:厚生労働省「平成29年患者調査」

 

 

 

笠原理事長はその理由について「高齢になり通院が困難になってしまったためであると考えられます。また、ほかの疾患と異なり『歯の治療くらいなら受けなくていい』と認識している人が多いことも挙げられます」と指摘する。特に、同法人の位置する岩出市は市の北部が山地となっており、通院のハードルが高い。

 

「歯科クリニックを経営していた際、山間部の特養3施設に通いで口腔ケアを行っていました。しかし、通いで十分な口腔ケアを実施するのは困難に思い、万全のケアを提供できる施設の経営に乗り出すことになりました」

 

 

法人では、新たな取り組みとして、口腔機能が低下する前に予防することを目的とした新たな訓練器具を開発しているという。口腔周辺の筋肉が鍛えられることにより、顔のたるみが解消、小顔効果が生じることを積極的に打ち出した器具で、タン練くんの発展モデルになるという。  

 

 

 

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