乗客見守るソフトパワー 安心・安全を求めて/JR東日本・佐久間晋氏【前編】

2021年3月27日

世の中のバリアフリー化が進み、車椅子での世界一周旅行も夢物語ではなくなった。最も身近な公共交通機関のひとつである鉄道の駅やホームなどで、駅係員による介助の風景を目にしたことがある方も多いだろう。発着駅間で緊密に連携のとれたこうしたサービスを利用して、杖や車椅子などでひとり旅する人も少なくないという。

さまざまなサポートを必要とする駅利用者を支える舞台裏をのぞいてみた。

 

 

 

東日本旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部サービス品質改革部副課長 佐久間 晋(すすむ)さん

 

 

 

――佐久間さんが所属する「サービス品質改革部」とは、主にどのようなことを行う部署ですか?

 

高齢の方や車椅子をご利用の方の社会参加の機会が増えるにつれて駅のご利用も増え、お客様が求めるサービスのレベルもより高くなってきた背景を受けて、2010年に設立されました。

 

バリアフリーには、エレベーターやホームドアなどのいわゆるハード面と、お客様への接遇などのソフト面の2つの観点があると思いますが、このソフト部分を主に担当しています。

 

たとえば、駅でサポートを必要とされる方がどういったことでお困りになっているのかを踏まえたうえで、介助や案内方法についての社内マニュアルを作るなど、お客様へのサービスの基本方針を決めて、現場の社員に向けた教育的な取り組みを行っています。

 

 

 

社員のサービス教育担う

 

――具体的に、どのような取り組みをされているのでしょう?

 

JR東日本では昨年度より、運輸部門や設備部門も含めた全系統の新入社員を対象に、「サービス介助士」資格の取得を推進しています。車椅子をご利用のお客様の視線の位置に合わせて物を見たり高齢者の疑似体験をしたり、といった実技講習と座学を通して介助のスキルとマインドを学び、接客に活かしてもらうためです。私たちは、こうした教育プランを立案します。 駅係員には、それぞれの現場の役割にプラスアルファとしてさまざまなお客様へのサービス提供が求められます。ですから一人ひとりが介助のスキルを身につけ、特別なニーズを持つお客様にも対応できるようにする必要があるのです。

 

また、会社として特に力を入れているのが「声かけ・サポート」運動で、車椅子やベビーカーをご利用の方、目の不自由な方、外国の方など、手助けが必要と思われるお客様に対して駅係員の方から積極的に声かけをしています。全国のJRや私鉄を含む交通事業者83社局と視覚障害者団体などが連携・協力して、11年から続けています。

 

 

みなさん困っていても、なかなか自分から「助けてください」と言い出すのは難しいこともあるようです。そんなとき、「何かお困りのことはありませんか?」「お手伝いしましょうか?」「May I help you?」と声かけすることで、安心して駅施設をご利用いただきたいと思っています。駅係員だけでなく、駅の放送案内やポスターなどで一般のお客様にも声かけのご協力をお願いしています。サポートを必要としている方を周りから温かくみんなで見守っていけるようなこうした運動を、社会全体に広げていくことが大事なのかな、と考えています。

 

 

 

おもてなしのマインドを

 

――駅では、車椅子の貸し出しのほか、乗降の介助なども行っていますね。こうしたサービスの利用手順と、その際の注意事項などがあれば教えてください。

 

基本的には予約なしで、当日駅の窓口か改札に来ていただき、そこから駅係員が対応する形になります。 ほかのお客様への対応や関係箇所との連絡調整などでお待ちいただく場合もありますので、時間に余裕を持っていらしてください。乗車駅係員がホームまでのご案内と乗車の介助をし、降車駅の指定ホームで駅係員が出迎え、降車の介助と改札までのご案内をします。車椅子の介助サービスは、ご本人単独でも介護者と一緒でもご利用いただけます。

 

 

車椅子利用者の目線で対応

 

 

 

社員には、お客様のご要望を伺ったうえで、最大限やれるところまでサービスを提供するようにと教育しています。一応基本は改札から改札までのご案内ですが、ほかの業務やお客様への対応、貸し車椅子の台数などとのバランスの中で、状況が許せば、たとえば駅前のタクシー乗り場までご案内するなど、後はそれぞれの駅と係員の采配によるところが大きくなると思います。

 

ただ、大変申し訳ないですが、おトイレの介助は致しかねますので、そこは介護者の方にお願いいただくか、単独でご利用の場合には乗車前におトイレを済ませておいていただけるようご協力をお願いします。

 

 

 

――仕事をするうえで、最も心がけていることは何ですか?

 

個々の駅係員の「おもてなし」のマインドを醸成しスキルアップを図るということと、そうしたマインドを社会全体に訴えかけていくということの両輪で進めていくという部分ですね。 高齢の方や身体の不自由な方はもちろん、すべてのお客様に安心して快適にご利用いただけるようなサービスを提供するためのプランニングを私たちは行いますが、実際にお客様に接するのは現場の社員です。ですから、現場とJR東日本12支社の所管部門それぞれとの連携が非常に重要になります。

 

駅係員や乗務員一人ひとりがホスピタリティ・マインドを持ってお客様に柔軟に対応していく。これが一番大切なことで、そのために何ができるのかを常に考えています。 

 

(後編に続く)

聞き手・文/八木純子

 

 

 

 

 

 

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