【書評】在宅ひとり死のススメ 上野千鶴子著/評:浅川澄一氏
書評 介護・医療業界注目の一冊
在宅ひとり死のススメ
上野千鶴子著
文春新書 800円(税別)
「死の自己決定」に疑問を抱え
13年前のベストセラー「おひとりさまの老後」以来の「おひとりさま」シリーズの4冊目である。死に的を絞った書名だが、 「おひとりさま」、つまり独居老人がいかに幸せかを歌い上げる。著者が名付けた「おひとりさま」が、今や傍流から主流に転換したことを自信たっぷりに論じる。
まず、大阪の医師の調査で、同居者などと比べて「子無しおひとりさまは満足度が最も高く、悩み度が低く、寂しさ率が低く、不安率も低い」という結果を披露。持論がデータで裏付けられたと説く。
次いで、病院死を否定して自宅死の良さを主張。子どもがいる人には、「ほどほどの介護負担を」させながら自宅介護の道を選べという。施設入所もばっさり切り捨てる。集団生活を強いられ刑務所と似ているからと。
「孤独死」への批判には、「キモは死後の発見を早めればいい」とかわす。在宅死の最難関と言われる認知症にも筆が及ぶ。「家族同居より独居の方がBPSD(行動・心理症状)が軽い」という医師のデータを開陳して「やったね!」とほくそ笑む。
と、ここまでは「もっとも」と頷いてきたが、死への意思決定を問うその先の展開には疑問を抱かざるを得ない。著者は尊厳死、安楽死に共に反対だと明言する。「死ぬことに自己決定があると思うのは傲慢だと思う」「食べられる間は生かして欲しい」と記す。だから、終末期の自己決定や事前指示書、ACP(人生会議)などにも否定的だ。
「他人に遠慮しないで済む自律した暮らし」を望むと本書にあり、常々「自立と自律」を唱えてきたはず。老衰死に賛同し、生活の延長に死があると了解していながら、事前の自己決定になぜこれほど強く拒否反応を示すのか。理解に苦しまざるを得ない。安楽死はともかく延命治療を拒む尊厳死まで否定するとは。
その理由は、気持ちが揺らぎながら亡くなった父親の姿を見たからだという。「死にゆく人は気持ちが変わる」、だから「健康な時に書いた意思を信じるな」と力説する。
では、終末期にただ「生かして欲しい」と頼めば、延命治療の世界に引きずりこまれてしまう。それでいいのだろうか。「在宅で亡くなるには医療の介入は要りません」「死ぬための医療はありません」と強調しておきながらだ。矛盾を感じてしまう。
評:ジャーナリスト 浅川澄一氏