なぜ今介護施設なのか 新型コロナガイドライン/東京慈恵会医科大学 越智小枝氏【集中連載①】

2021年4月6日

日本環境衛生安全機構(JEHSO)による介護施設の新型コロナガイドライン

 

 

感染対策の順位付けが肝心  「健康リスク、ウイルスの暴露量低減」明記

 

 

■新型コロナはエンデミック期へ

 

パンデミック開始から1年余りがたち、今、新型コロナウイルスは「特殊な場所から持ち込まれる特別な感染症」から「恒常的に社会に存在するエンデミック」へ姿を変えている。

 

エンデミック期の特徴は、巷の感染者数を追っても感染リスクを推定できないことだ。感染者数がどんなに減少しても、いったん脆弱性の高い場所に感染が持ち込まれれば一気に大規模のクラスターが派生し得るからである。このような時期には、社会全体が均等に厳しい自粛を続けるのではなく、感染対策の優先順位付けをすることが必要だ。

 

 

すなわち

①重症化リスクの高い者

②感染リスクの高い行為

③大規模クラスターの発生し得る場所

に重点的な感染防護を行い、それ以外の人々は細心の注意を払いつつも日常生活へ復帰することが、感染症以外も含めた健康被害を最小化させる最善の策である。 また優先順位の高い場所においても、持ちこみ0を目指す「水際対策」ではなく、持ち込まれることもある程度想定した上で、個人の健康リスクとウイルスの暴露量を低減させる対策に重点が置かれるべきである(図1)。

 

 

 

 

 

 

介護施設は感染の〝辻〞

 

言うまでもなく、介護施設は上記①〜③の条件を全て備えており、個人のリスク、感染暴露リスクのいずれも高い人々が集まる「辻」とも言える。持ち込まれた感染は容易に大規模なクラスターへと発展し、地域の医療崩壊も生じ得るだろう。そう考えれば、介護福祉施設が新型コロナ対策の最優先課題となることは論を待たない。

 

 

 

■日本環境衛生安全機構ガイドラインの特色

 

日本環境衛生安全機構(JEHSO)は、コロナ禍に喘ぐ種々の業者の支援を目標として2020年9月に設立された。その主な支援対象は飲食店と介護施設である。本機構では11 月に新型コロナウイルス対策ガイドラインを策定し※(1)、順次改定を行っている。 全国で多くのガイドラインが林立しているが、その中でも本ガイドラインには以下の2点の強みがある。

 

 

①専門家による査読を受けていること

本ガイドラインの作成に当たっては、病院診療・訪問診療・リスク管理・倫理などの専門家の査読を受けている。査読の際にはエビデンスレベルが低い項目や現実的に実現困難である項目などを削除し、持続可能な項目に的を絞ることに重きを置いた。

 

 

②ガイドラインの位置づけと目的が明示されていること

本ガイドラインでは、最初に「新型コロナウイルス10か条」(表1)として、ガイドラインの原則と目的を明示している。その中でも特に、ゼロリスクを目指すものではなくリスクを低減するものであること(項9)が明記されている点は他ガイドラインには見られない特徴だ。その根底にはサービス提供者だけでなくサービス利用者もまたリスクを理解し、リスク低減に協力することで、スタッフの燃え尽きを少しでも防げるのでは、というコンセプトがある。

 

 

 

 

 

 

③介護施設のガイドラインが示されていること

本ガイドラインでは感染対策の「鬼門」ともいえる介護施設にあえて注目し、事業の特性を踏まえた具体的な項目を提示している。現場が責任の一端をガイドラインに預けることができれば、スタッフの精神的負担は多少なりとも軽くなる。そのためにも、ぜひ本ガイドラインを使用していただければ、と考えている。

 

 

次稿では、本ガイドラインをもとに、介護施設の感染対策の課題と重点領域につき解説する。

 

※(1)https://jehso.org/guideline/https://jehso.org/guideline09/

 

 

東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 中央検査部臨床検査医学講座 

越智小枝准教授(おちさえ)

医師、公衆衛生修士、医学博士。日本環境衛生安全機構(JEHSO)専門家委員会委員。東京医科歯科大学医学部卒業。2011年の東日本大震災をきっかけに、Imperial College London、WHOで災害公衆衛生を学ぶ。13~17年に福島県相馬市に移住し、現地で医師として勤務する傍ら公衆衛生研究・リスクコミュニケーションを行ってきた。17年より東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座、21年より現職。

 

 

 

 

 

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