ファストドクター・医師 菊池亮氏 24/7(年中無休)の医療を【前編】

2021年8月12日

「寄り添う」をかなえたい

 

通院困難な人への救急医療の提供をコンセプトに、2016年より活動を続けるファストドクター(東京都新宿区)。超高齢社会に突入したこの国で今後確実に求められる医療の形を切り開く頼もしい存在だが、在宅訪問や健康相談などを通して新型コロナウイルス感染症の診療にも大きく貢献している。自身も往診に携わり患者の容体を見守り続けてきた代表の菊池亮先生に、コロナ診療の現場について伺った。

 

 

ファストドクター株式会社
代表取締役 医師 菊池亮先生

 

 

――夜間休日に特化した診療とのことですが、最初に組織の活動概要について教えてください。

 

主に3本の柱があって、まず1つ目の柱は電話での救急相談です。患者の話を聞き、症状に応じてトリアージ(緊急度判定)を行って、往診、自宅待機、あるいは近くの救急病院を紹介、といったその後の対応を判断します。

 

2番目の柱は患者への医療支援で、緊急性がそこそこあり、かつ通院が難しいと判断した場合に、ファストドクターが連携する医師による救急往診またはオンライン診療をご案内しています。 最後の柱は地域医療連携です。自分たちが行った診療についてかかりつけ医にフィードバックを行い、この連携を通して患者が24時間365日切れ目のない医療を受けられる状態に繋げることこそ大事だと考えています。患者にかかりつけ医がいない場合は、医師を探すサポートもします。

 

現在対応可能なのは、東京、千葉、神奈川、大阪、愛知、福岡など10都府県、約170の市区町村で、11の医療機関および1151人のドクターがファストドクターの活動に参画し、往診を行っています。

 

 

 

ルール一から模索し

 

――新型コロナウイルス感染患者への対応も積極的に行われていますね。

 

コロナ患者の在宅診療は、いわゆる「第1波」が来た20年4月に開始しました。当初は厚労省からのガイドラインもプロトコルもなく、患者やご家族と密になる自宅という環境で距離をどう保てばよいのか、どこで防護服を着脱するか、といったオペレーションルールを現場からのフィードバックを基に一から全て考えなければならず、もの凄く大変でした。

 

8月からは、在宅でのPCR検査も始めました。当時PCR検査は感染症対策ができる指定病院のみでやるべきとの風潮があり、批判も受けたのですが、発熱患者に対してPCR検査を手配する保健所のマンパワーがあまりにも足りなすぎて検査に1週間以上待たされるような状態だったため、敢えて決断しました。

 

今年6月までの時点で、在宅PCR検査の実施数は2万件以上、うち陽性者数は2000人以上です。電話での相談件数は昨年12月くらいから増え、多い時は、新型コロナ以外の一般患者も含め、月に1万5000件を超えました。

 

 

患者宅でPCR検査を実施(提供:ファストドクター)

 

 

 

――東京都や大阪府の自治体からも新型コロナ対応の協力要請があったと伺いました。どのような状況だったのでしょう?

 

今年の4月、大阪府からの依頼で診療にあたったのが、自治体との最初の連携でした。患者宅で救急車が丸一日入院調整をしているのですが決まらず、現場での継続的な酸素投与の業務をファストドクターが巻き取ってくれと。同じ日に同じような案件が立て続けにあって、こんなことが起きているのかと本当に衝撃的でした。救急医療体制が麻痺して、現実に、患者の治療への介入に深刻な遅れが出ていたのです。

 

それ以前も、コロナ陽性で入院まで自宅待機している患者にパルスオキシメーターを貸し出したり、看護師が毎日電話で体調確認したりというフォローアップは行っていましたが、潮目が変わったのがこの4月の「第4波」の時でした。

 

 

おそらく変異株ウイルスの影響だと思うんですが、症状の進行が非常に早くなり、高齢者だけでなく若年から中年の患者が重症化するケースが増えていきました。大阪府の症例に限ると、3、4割の患者がこうした重篤な状態なのに、入院調整が叶うまで、長いと10日くらいかかっていました。そのため、酸素やステロイド、点滴の投与や採血など、いわゆる急性期の管理を在宅現場で集約的に行いました。酸素投与が必要な患者に寄り添った経験は、おそらく日本で一番持っているのではないかなと自負しています。

 

 

 

急性期の管理、在宅で

 

――連日の報道を見るにつけ、感染患者に向き合う医療現場の方々と政府や自治体責任者との間の、認識のズレに違和感を覚えます。

 

リーダーシップが不在だなとは感じます。情報が集約されておらず、オペレーションがバラバラなんですね。ベッドや在宅医の確保など、医療支援体制はある程度整ってきたとは思うんですが、現場とリーダー機関との情報連携のあり方に1つの大きな課題があるのかなと思います。

 

本来有事には、まず災害対策本部のようなところが情報を集約し、現場に指示を出していくといった救急オペレーションの形が昔からあります。しかし今回の感染症対策においては、おそらく法律的なねじれもあるのでしょうが、なんかいろんなリーダーがいて情報がまとまらない、みたいな状況になっていますよね。みなさん頑張っていらっしゃるのは分かるのですが。

 

長い目で見れば、今後新型コロナに限らず似たようなケースは必ず起こると思います。とにかく早い段階で適切な治療を介入し、正しく入院診療を継続してあげることが非常に大事ですので、こうした教訓を踏まえた基盤作りと情報共有が必要だと思います。

 

(後編に続く)

聞き手・文/八木純子

 

 

 

 

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