孤立防ぎ疾病予防へ 岡山県奈義町で家庭医療

2021年8月29日

社会医療法人清風會(岡山県津山市)が運営する「奈義ファミリークリニック」(同奈義町)では、家庭医療の実践に注力。高齢者男性の孤立という地域課題の解消のため、町の社会福祉協議会と連携したプロジェクトへ協力。病気の治療と、その要因になる社会的課題の解決に取り組む。

 

奈義町は、岡山県と鳥取県の境に位置する。人口約6000人。 奈義ファミリークリニックは、内科、小児科のほか、在宅医療にも取り組んでおり、近隣の美作市、津山市にある同法人のクリニックと連携し、24時間対応している。

 

クリニックでは、患者の背景にあるものを分析し、治療にあたる「家族の木」の考え方を重視している

 

 

 

地域課題に対応

 

前身は、1957年に開設された、日本原病院のサテライト診療所である豊田診療所。平成に入り、住民のかかりつけ医であった、当時80代の診療所医師が引退。後任の医師がおらず、奈義町は無医地区となる可能性があった。そこで、奈義町、日本原病院、プライマリ・ケアのモデル地域を探していた川崎医科大学が連携。町が建物の建設、病院が運営、大学が医師の派遣を行う形で、95年に改めてクリニックをスタートした。

 

家庭医療の実践について松下明所長は、「外来に来た患者に対する問診で、その家族の情報など、背景にあるものを分析し、全体像をつかむという『家族の木』の考え方を重視しています」と話す。

 

 

実際には医師との信頼関係や、患者本人の状態などにより、常に必要な情報が得られるとは限らない。そこでクリニックでは、電子カルテシステム上に、家族のカルテ情報を紐づけた「家族図」を作成している。これによって、それぞれの関係性や健康状態を俯瞰的に見られる。「熱発の患者の例なら、家族に最近受診した人がいないか、家族図を参照します。仮に患者の子どもが熱発で受診していたとします。そこから、その子どもの職場環境に問題があるのではないか、と深い分析ができます」。本人の治療に役立つだけでなく、その過程で知りえた家族の抱える問題についても支援することができる。

 

 

 

高齢男性対象に交流を促す取組

 

町では月1回地域ケア会議を開催しており、クリニック医師も参加。町ぐるみで社会的な取り組みを実践、病気の予防につなげている。

 

その取り組みの1つとして、松下院長や当時、町の保健師であった植月尚子氏、俳優で介護福祉士の菅原直樹氏を中心に「ちょいワルじいさんプロジェクト」を立ち上げた。高齢男性が主体となり、温泉旅行やライブなどの様々なイベントを企画・実施するもの(6月9日号に関連記事)。

 

 

 

 

 

奈義町では高齢男性が家に閉じこもりがちになり、飲酒量が増え健康を害する事例が多く、地域ケア会議で対策が検討されていた。

 

 

2015年には効果的な対策を行うため松下院長らを中心に、高齢男性が社会的な交流を避ける理由についての研究を実施。植月氏の協力で町内在住の30人を対象に、グループ面接もしくは個別面談をした。

 

「『女性参加者の前で恥をかきたくない』といった、参加者同士の関係性の要因が大きいことが分かりました」(松下院長)。また、「仲間同士で話ができる機会が欲しい」という声や、別の研究の「事業参加による達成感を男性は求める」という見解もあった。そこで、男性が集まり話し合い様々なイベントを企画するという、現在のちょいワルじいさんプロジェクトができ上がったという。

 

 

「ちょいワルじいさんプロジェクト」の様子

 

 

 

松下院長、家庭医療の実践には、医師が地域の社会的課題に切り込む必要あるとしている。

 

 

 

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