「重層的支援体制」のモデル 居場所付き「何でも相談所」/浅川澄一氏

2021年10月6日

昨年成立した改正社会福祉法がこの4月から施行され「重層的支援体制整備事業」が始まった。具体策として「包括的な相談支援体制」が提言された。「属性に関わらず、地域の様々な相談を受け止め、自ら対応またはつなぐ機能」と厚労省は説明しており、「断らない相談」とも言われる。

 

 

8050世帯やダブルケアなど家族や地域住民の課題は複雑化・複合化する一方。だが、高齢、障害、子育て、生活困窮など相談窓口は縦割りのまま。そこで課題を丸ごと引き受ける「なんでも相談所」の開設となった。

 

とはいえ、初対面の人に複雑な悩みは打ち明けにくい。住民が気軽に立ち寄ることができる「居場所」を併設すれば相談しやすい。

 

 

東京都江戸川区内には、「なんでも相談」を掲げる「なごみの家」が9か所あり、いずれも地域交流の場を備える。「なごみの家一之江」もそのひとつ。

 

「なごみの家一之江」で開かれる体操教室。地域交流の場でもある

 

 

 

「握力測定と立ち上がりから始めます」。講師の声でこの日の体操が始まった。参加者は4人の住民と支援ボランティアの2人の女性。椅子に座る動作を繰り返すと次はラジオ体操にうつる。 コロナ禍でこうした体操教室を中止するところが多いが、ここではマスクや消毒などに配慮しながら続けている。毎週通ってくる夫妻は「自宅ではなかなか体が動かない。ここなら声を掛け合いながら気分良くできる」と話す。

 

 

「なごみの家」を統括するのは江戸川区社会福祉協議会。同区が「制度の枠内には収まらない課題を地域の中で解決する」という狙いで2016年から順次立ち上げ、一カ所あたり約3000万円の補助金を出してきた。保健師を含め3~4人のスタッフが常駐。繁華街の空き店舗を改修し、大半を区社協、社会福祉法人が運営するが一之江は地元の介護事業者「ウメザワ」が社協から委託された。

 

「誰でもふらっと立ち寄れる居場所も兼ねてます」。3人のスタッフが机を並べるすぐ脇で体操などの地域交流の輪が広がる。元はビデオレンタル店だった。コロナ禍で「うつなど精神的な疾患を訴える相談が増えた」と言う。相談件数は電話を含め月60件と3割も増えている。

 

 

よく来訪しお茶を飲みながら世間話をしていた高齢女性が、役所から届いた税の書類を持ってきて、相談に来たことがある。「認知症が進んできたので成年後見人が必要」と判断。後見人を付けるためケアマネジャーと一緒に区社協につないだ。顔なじみだったので相談しやすかったのだろう。

 

一之江駅に近い「なごみの家一之江」は集合住宅の1階にある

 

 

 

川崎市の社会福祉法人、川崎聖風福祉会が運営する「たじま家庭支援センター」は、子ども食堂を開きながら相談支援を行っている。同センターは「かわさき障害者福祉施設たじま」内に2016年4月に開設。障害者向け施設だが高齢者や児童にも開放。世代や属性を問わずに相談を受ける。 しかも、一階の地域交流センターとロビーを使い月2回、子ども食堂を開く。その利用者たちの様子から家族全体の不穏な状態を察して、相談支援につなげるケースがある。

 

 

4年前に子ども食堂に来ていたA君の場合、中学生になったいまでも同支援センターの職員と連絡を取り合っている。小学校で友達付き合いがうまくいかず、トラブルが続いていることが分かってからだ。職員は話を丁寧に聞きだし、運動会や授業参観にも赴き、学校生活をできるだけ把握するよう努めた。発達障害に近いことも判明した。 こども食堂には、大学生たちがボランティアとして参加し、カレー作りなどに来ていた。コロナ禍で子ども食堂は現在休止せざるを得ないという。

 

 

浅川 澄一 氏

ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員

1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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