サ高住入居者にケア制限 厚労省が「囲い込み」防止策/浅川澄一氏

2022年2月4日

2011年10月に施行された「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」が10年を迎えた。 国交省は普及させようと、1部屋当たり100万円もの破格の高額補助金を投入してきた。人気が高まり、開始3年後には定員が16万人弱まで増え、5年後にグループホームの定員を追い抜いた。だが、最近の3年間はわずかに3万5000人しか増えず、27万人台前半で足踏み状態だ。

 

要介護3以上の中重度者が入居者の約3割となっているにもかかわらず、必要な介護スタッフが集まらないことが開設鈍化の大きな要因である。その上、国や自治体からの運営規制が厳しくなりつつあることも意欲をそいでいるようだ。

 

 

2021年9月22日に厚労省から都道府県、指定都市などに出された事務連絡で、入居者のケアプランの点検を求めた。「囲い込み」の削減策だ。 厚労省は3月の自治体向けの通達で「介護保険サービス事業者が併設等する高齢者向け住まい等において、家賃を不当に下げて入居者を集め、その収入不足分を賄うため、入居者のニーズを超えた過剰な介護保険サービスを提供している場合がある」と、「囲い込み」について説明する。

 

9月の事務連絡では、ケアプラン事業所が扱う一般のケアプランついて初めて数値基準を設定し、それ以上の事業所は、自治体が設けた地域ケア会議やサービス担当者会議などの場で説明しなければならない、とした。 その数値は、在宅サービの区分支給限度額の70%以上で、かつ訪問介護の比率が60%以上。加えて、サ高住と住宅型有料老人ホームの入居者のケアプランは、この70%と60%の数値を各市町村が独自に自由に決めていいとした。

 

 

実は、厚労省はこれまでも支給限度額に近い介護サービスを提供するケアプランについて全国の自治体に「警告」を発してきた。介護保険適正化事業と言われる。介護保険の利用状況を審議する社会保障審議会介護給費分科会で、「サ高住で悪質な囲い込みが目立つ」などと再三指摘されている。そこで、今回数値を示し踏み込んだ。

 

 

 

 

新しい点検制度は2021年10月1日以降に作成されたケアプランが対象。第一弾として、12月までの3か月分のケアプランを各都道府県国民健康保険団体連合会がチェックし、2月に市町村に伝える。同連合会は3カ月ごとにチェックを繰り返す。 市町村はその中で点検が必要と判断した5つのケアプラン事業所を指名し、地域ケア会議などに呼び出すことになる。実施した自治体には厚労省から300万円の補助金が「ご褒美」として出る。

 

この点検制度には多くの問題がある。サ高住併設の訪問介護事業所やケアマネジャーから早くも異論が出ている。「利用者の自立支援を第一に考えてケアプランを作成している。要介護4、5の人には相当量のサービスが必要となります」「70%、60%の数字を機械的に当てはめるのはおかしい。ケアが必要な理由がそれぞれあります」――。

 

 

新制度では、ケアマネジャーが本人と相談し、サービス担当者会議の了承を得たケアプランの見直しを迫られてしまう。専門職として業務を否定されるようなものだ。厚労省は「地域ケア会議などで説明し、参加した多職種が納得すれば見直さなくてもいい。利用者本人が了解しなければ変更できない」と言う。

 

だが、ケアプラン事業所は地域ケア会議に呼び出されるのは面倒なので、自主的に数値抑制に向かう可能性が高い。 そもそも、70%の線引きは、利用者の介護サービス受給権の制約になる。支給限度額いっぱいまで自由にサービスを選べるのが介護保険の大原則であるはずだ。

 

 

 

浅川 澄一 氏 ジャーナリスト 元日本経済新聞編集委員 1971年、慶応義塾大学経済学部卒業後に、日本経済新聞社に入社。流通企業、サービス産業、ファッションビジネスなどを担当。1987年11月に「日経トレンディ」を創刊、初代編集長。1998年から編集委員。主な著書に「あなたが始めるケア付き住宅―新制度を活用したニュー介護ビジネス」(雲母書房)、「これこそ欲しい介護サービス」(日本経済新聞社)などがある。

 

 

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