給与制度を刷新 社会福祉法人若竹大寿会(横浜市)
社会福祉法人若竹大寿会(横浜市)は昨年12月、給与水準の引き上げを目的に、給与制度を大幅に見直し、能力給制度を導入した。 求められる役割と成果に応じて10階級にグレード分けし、上位に移行すると年収が増加する仕組み。職員定着とレベルアップを推し進める。
役割・成果で評価
新たな給与制度では、法人理念に基づいた「行動」と「成果」を基にグレードを決定する。「行動」は専門性を発揮する、利用者や仲間に信頼される、などのアクションに着目。「成果」は、利用者の生活の質や機能回復の度合いなどから判断する。
グレード1~5は一般職員、6以上はリーダークラスに該当する。 階級ごとに役割、行動、成果を明確化しており、職員はステップアップの道筋を具体的に認識できる。加えて、ケアの質向上へと結びつけやすい。グレードが1つ上がることで年収が5万7000~32万3000円上昇する。
また、個人の能力や事業所実績によって賞与額が変動する仕組みも取り入れ、介護業務の責任者クラスの平均的な年収は500万円以上となる設計とした。

10段階でグレード分け。「G6」以上には年収500万を超える人もいる
グレード2(スターター:新卒入職者などが該当)の評価の例では、「未経験のことや人に対して能動的に臨むことができる」「決められた業務を実行するために自身の計画を立案できる」などの24項目用意。それらはキャリアデザインシートに記載されており、上司との面接時などに「大いにできた」「できた」「できなかった」の3段階で評価を行う。
また、「全ての業務をこなすことができる」、「介護初任者研修を終える」、などのグレード必須要件もあり、それらもシート上でチェックする。これらに基づき、一定の要件を2期連続で満たせば上位に移行し、3期連続で満たせない場合は下位へ移行する。
60人分労働コスト2億7000万円分削減
ある20代後半の職員の年収は、500万円以上となった。厚労省の2019年の全産業を対象とした調査では、20代で年収500万円以上の人は20~24歳で0.2%、25~29歳で1.1%。働き方次第で、平均より早期に年収の上昇が期待できる。
給与アップの原資となるのが、①業務改善、②高稼働、③特定処遇改善加算の3つ。
特に法人では①について、トヨタ生産方式をベースとした効率化、IoTデバイスと記録ソフトなどを連携した業務支援システムの構築といった取り組みを進めてきた。その結果、特養や老健などの人員配置が2.5対1となった。職員の効率的な配置により、労働時間で考えると約60人分の削減となった。職員の人件費を1人450万円と考え、約2億7000万円コストが削減されたという。
また、②では通所系の稼働率が法人全体で87.3%、入所系では約100%となっている。③では約1億2000万円の収入があった。 これらを適切に職員へと還元することで、モチベーションを向上、ケアの質も同時に高めることを狙う。それが利用者満足の向上になり、経営の安定化にもつながる。
山岡悦子副本部長は制度を設計する際、「働き続けたい」と思えることを重視したと語る。「新たな制度により、働く人、ケアを受ける人、両方が『ハッピー』になればいいな、と思っています」 併せて、人材への投資を進めるのは、「社会福祉法人の生き残りをかけた戦略」という面もある。高齢者の増加を受け、介護業界には他業種からの参入も相次いでいる。
山岡副本部長は「今後、そのような『経営のプロフェッショナル』たちと、人材確保も含め様々な面で渡り合っていかなければなりません」と語る。 社会福祉法人には、介護のプロとしての専門性だけでなく、業務効率化などを通じ経営を効率化する手腕が必須になるとした。