【上海福祉の今】定年引き上げ/王青氏
2045年までに定年65歳へ
経済発展地区である江蘇省が全国の先陣を切って、定年年齢を引き上げる法案を発表し、3月1日から正式に施行された。企業と従業員ともに、意向がある場合、最低1年を条件に定年を引き上げる。
定年の引き上げについては、2012年に政府が試みようとしたものの、国民からの猛反対により、実現されなかった。
20年には、政府が発表した「国民経済・社会発展第14次5カ年計画(2021~2025年)及び2035遠景の提案」で、「基礎年金を全国で統一し、定年年齢の引き上げを漸進的に実施する」という一節が組み込まれた。
そして今回、ついに経済発展地区から定年引き上げを実施し、全国に普及させる計画である。この背景には、深刻な少子高齢化問題や労働人口の減少、年金の資金不足、平均寿命の延伸などがある。
中国の定年は性別・職種で変わり、現在は男性60歳、女性55歳(肉体労働者の場合は、男性55歳、女性50歳)となっている。これは1949年の建国以来、一度も変化していない。
73年前、国民の平均寿命は40歳だったが、昨年は77歳。男女で比較すると女性78歳、男性75歳と、女性の平均寿命が高いにもかかわらず、定年は女性の方が低い。これについて「まったく時代にそぐわない」と専門家は指摘する。
一方、国民の約8割は定年の引き上げに反対している。
その主な理由は、①「第二の人生」を楽しみたい・家族と一緒の時間がほしいから②年金をもらえる期間が短くなってしまうから③働き続ける意欲が無いから、など。
中国では殆どの世帯が共働きで、家事や子育てに積極的な男性も少なくない。そのため、リタイア後は現役中にできなかったことをやり、家族との時間を大切にしたいという思う人が多い。
2019年に中国社会科学院が発表した報告によると、急増する高齢者人口に対して、年金財政は逼迫しており、35年には限界がくるとしている。地域格差が激しく、現に約8割の自治体が財源不足となっている。
現在、約3億人が年金生活を送っているが、今後2~3年で60年代初期のベビーブーム世代の波が押し寄せる。その数、約4000万人。
労働人口の減少に伴い、年金負担増は避けられない。政府は2045年までに男女ともに定年を65歳に引き上げる方針だ。
王 青氏
日中福祉プランニング代表
中国上海市出身。大阪市立大学経済学部卒業後、アジア太平洋トレードセンター(ATC)入社。大阪市、朝日新聞、ATCの3社で設立した福祉関係の常設展示場「高齢者総合生活提案館ATCエイジレスセンター」に所属し、広く「福祉」に関わる。2002年からフリー。上海市民政局や上海市障がい者連合会をはじめ、政府機関や民間企業関係者などの幅広い人脈を活かしながら、市場調査・現地視察・人材研修・事業マッチング・取材対応など、両国を結ぶ介護福祉コーディネーターとして活動中。2017年「日中認知症ケア交流プロジェクト」がトヨタ財団国際助成事業に採択。NHKの中国高齢社会特集番組にも制作協力として携わった。