介護職員等の処遇改善 制度上の課題、議論の行方に注目/斉藤正行氏

2022年9月7日

今回は介護職員等の処遇改善をテーマに論考します。介護職の平均年収は、全産業平均と比べて月額数万円低い水準にあるとの調査結果が示されており、処遇改善は業界最大の課題の1つです。

 

政府により過去に何度も対策は実施され、「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」に加えて、本年2月より「介護職員処遇改善支援補助金」が支給され、10月より「介護職員等ベースアップ等支援加算」として介護報酬に組み込まれる予定です。これらの加算により介護職員等の処遇は大きく改善されており、ありがたい施策であります。しかし、制度にいくつもの課題が生じており、現場の不満の温床となっている側面もあります。

 

 

例えば、加算算定における提出書類が膨大であり、計算式が複雑となっている点は、現場から多数の不満を聞きます。今後加算が3種類となることから、各々の計画書や実績報告書の提出が求められ、事務作業の増加に伴う残業の発生、システム導入に伴うコストの発生、更には、書類提出を士業の方等に代行してもらうコストが発生するケースもあり、職員に対する分配率を阻害している一因として、制度や書類の簡素化が望まれています。

 

また、「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」は、介護職員以外への分配も可能ですが、「介護職員処遇改善加算」は介護職員のみしか分配できないので、多職種が働く介護現場で不公平を感じる場合もあります。特に、居宅介護支援事業所におけるケアマネジャーに加算が存在していないことは、不満の温床となっています。

 

 

次期介護報酬改定において、これらの制度上の課題解決に向けた議論も行われることになります。現場の想いを汲取った改定を期待したいです。また、岸田政権では「公的価格を見直し介護職の処遇改善を行う」ことが看板政策の1つに位置付けられており、更なる改善策が検討される可能性もあります。

 

 

最後に、もう1つ注目するべきポイントは、「ベースアップ等支援加算」は、月額給与への支給を全体の3分の2以上行うことが義務付けられました。

従来、分配方法は法人の采配に委ねられ、結果、月額給与ではなく、賞与支給で分配する法人も散見されています。賞与支給では、毎年の業績配分等で金額が異なることも多く、加算による支給が職員に実感され難いという課題があります。

 

月額支給の考え方が、従来の2種類の加算にも組み込まれると職員の処遇改善の実感が大きくなるのではないでしょうか?これからの議論の推移が注目されます。

 

 

 

 

斉藤正行氏 プロフィール
2000年3月、立命館大学卒業後、株式会社ベンチャーリンク入社。メディカル・ケア・サービス㈱の全国展開開始とあわせて2003年5月に同社入社。現在の運営管理体制、営業スキームを構築し、ビジネスモデルを確立。2005年8月、取締役運営事業本部長に就任。2010年7月㈱日本介護福祉グループ副社長に就任。2018年4月㈱ピースフリーケアグループ代表に就任。2018年6月、介護業界における横断的・全国的組織となる一般社団法人全国介護事業者連盟を結成。㈱日本介護ベンチャーコンサルティンググループの代表を務めている。

 

 

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