ケアラーの権利確保 支援法の制定を/武藤正樹氏

2022年9月26日

ケアラー支援法の制定を!

 

横須賀で週1回、訪問診療に出かけている。最近気になるのは、在宅の高齢のご主人の介護をする高齢の妻や、両親に付き添って介護している娘や息子さんなどケアラー(家族介護者)のことだ。

 

寝たきりの両親2人を介護している実の娘さんなどは、訪問するといつも玄関脇の部屋で横になっている。我々が玄関に入ると、起き上がって両親の部屋へ案内してくれる。日頃の介護の疲れが溜まっているのだろう。

 

また先週も寝たきりの両親を在宅で介護している50代の息子さんや、母親を介護している息子さんの家で話をする機会があった。お2人とも仕事と介護の両立は大変だと言っていた。在宅で寝たきりの両親を介護している50代の男性はほぼ介護にかかり切りになって、仕事も諦めたという。

 

 

こうしたケアラーの実態について、NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンでは2010年に、1700人のケアラーを対象とした調査を行った。調査ではケアラー自身が望んでいる支援を聞いた。その回答は以下の通り。

 

トップはケアラー本人の急な入院時の被介護者の緊急レスパイト入所などのサービスだ。次いで在宅介護者手当や年金受給要件に介護期間を加えてほしいなど経済的な支援、そしてなによりも専門職や行政職員のケアラーに対する理解と、仕事と介護の両立支援を希望していることが分かった。

 

こうしたケアラー支援が進んでいる英国では、1995年にいち早くケアラー支援法が制定された。同法では、ケアラーも支援を受ける権利を有すること、そして自治体はケアラーの困難な生活状況をアセスメントし、支援する義務を有するとしている。このため英国ではケアラーセンターが地域に設けられた。

 

 

2015年の夏休み、我々はこうしたケアラーセンターの1つを訪ねた。訪問したのはロンドンのサットン・ケアラーセンターで、NPO支部団体として設立された老舗のセンター。職員20名、ボランテイア55名という体制だ。

 

活動内容は、レスパイトケアやケアラーの権利など情報提供サービス、ケアラー同士のグループ活動、カウンセリングサービス、介護方法などの研修やペアレントケアラーのワークショップなど。さらに経済的支援では、ケアラーのアセスメント支援や、ケアラー年金、障害者年金の受給支援などに対応。またヤングケアラーの学習や就労支援も行っていた。

 

 

一方、日本のケアラー支援といえば、ようやくヤングケアラーにスポットが当たり始めたばかり。全てのケアラーの権利擁護までに至っていない。

 

介護離職10万人の時代だ。介護しながら働くことのできる環境づくりにケアラー支援法は必須だ。

 

 

 

 

武藤正樹氏(むとう まさき) 社会福祉法人日本医療伝道会衣笠病院グループ相談役

1974年新潟大学医学部卒業、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中86年~88年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。94年国立医療・病院管理研究所医療政策部長。95年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉大学大学院教授、国際医療福祉総合研究所長。政府委員等医療計画見直し等検討会座長(厚労省)、介護サービス質の評価のあり方に係わる検討委員会委員長(厚労省)、中医協調査専門組織・入院医療等の調査・評価分科会座長、規制改革推進会議医療介護WG専門委員(内閣府)

 

 

この記事はいかがでしたか?
  • 大変参考になった
  • 参考になった
  • 普通



<スポンサー広告>