感染症と脱水/みさと中央クリニック 髙橋 公一氏
小さなきっかけが大きな疾患に
新型コロナの世界的な流行から3回目の冬を迎えている。その間、我々はマスクの着用やうがい手洗い、手指のアルコール消毒を徹底することで、感染防御に努めてきた。その結果、新型コロナの感染においては不十分ながら感染拡大をある程度抑えてきた。それ以上に、ここ数年はインフルエンザ感染症の拡大が起こすことなく冬を過ごしている。我々が行ってきた感染対策の効果が出ていると考えられてきた。
しかし、残念ながら今季はインフルエンザの流行が認められている。新型コロナの予防接種が進んでいるほか、それに対する治療薬も供給が安定し、第7波、第8波と言われる状況でも行動制限がとられていない。我々は少し感染症に対する防御の考え方が不十分になりつつあるかもしれない。
また、ウイルス性腸炎の患者も増加傾向にあり、特にノロウイルスの感染症については、毎日の診察でそれを見ない日はないほどだ。
新型コロナやインフルエンザに関わらず、発熱をすると特に高齢者においては脱水を起こしやすい。体内の水分含有量が少ない高齢者においては、一見軽度の脱水に思えるような状態であっても、病状に大きく影響することがある。
まず脱水によって血管内の水分含有量が下がれば、血液循環量が減り、脳血流が減って意識レベルに影響が出る。脱水傾向が進めば、ナトリウムやカリウムといった電解質バランスに異常をきたすので、それも意識の混濁や筋肉などの運動能力に多大な影響が出るであろう。さらに血液循環量の低下は腎血流量も低下させてしまうので、著しく尿が減るか、もしくはかなり濃縮された尿になっていく。尿が濃縮すれば、その中の浮遊物や血漿成分が析出し、腎臓結石や尿路結石を起こす。
また尿量が減ると排尿回数が減るので、膀胱内に長く尿が停滞し、それその結果、新型コロナの感染においては不十分ながら感染拡大をある程度抑えてきた。それ以上に、ここ数年はインフルエンザ感染症の拡大が起こすことなく冬を過ごしていが細菌性膀胱炎や泌尿器系の感染症を起こしやすくする。ひとたび腎盂腎炎を起こせば入院を必要とする重篤な病状となる。脱水状態が続けば、当然喉は乾くので口腔内が乾燥していく。それによって口腔内にかなり粘稠度の高い、もしくは乾燥したような喀痰がこびりついてしまうことがある。それは口腔内常在菌の増殖の温床となり、それを誤嚥すれば、間違いなく誤嚥性肺炎を起こす。
つまり、ひとえに脱水といっても、起こし得る感染症は多岐に渡る。小さな感染症が大きな疾患のきっかけになることがよくある。風邪は万病のもとと言うが、特に脱水状態における様々な病状の合併もしくは進行に対して、我々は常に気を配るべきだと思う。
髙橋 公一
医療法人社団 高栄会 みさと中央クリニック
埼玉医科大学病院 第一外科入局。消化器・一般外科、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科、移植外科、脳神経外科、小児科などを経験。2001 〜03 年に外科留学、移植免疫学を学ぶ。帰国後、埼玉医科大学に復職し、チーフレジデントを勤める。その後、池袋病院外科医長、行田総合病院外科医長を経て、08 年みさと中央クリニック開院。17 年に法人化。